artscapeレビュー
2012年04月15日号のレビュー/プレビュー
山口晃「望郷──TOKIORE(I)MIX」
会期:2012/02/11~2012/05/13
メゾンエルメス8階フォーラム[東京都]
分厚いガラス窓に囲まれた天井の高いフォーラムに、絵画の展示には不向きなこの空間に、絵師山口晃はどのように対処するか、そこが楽しみだった。しかしまさかこんな「解」を出してくるとは思わなかった。黒々とした電信柱を5、6本立てたのだ。その電信柱には山口の絵に出てくるようなゴチャゴチャとしたものが付随していて、そのうちの1本の下には便器までついている。この電信柱のシルエットはなつかしく、「三丁目の夕日」のような昭和の香りがする。その向かいの、いつもは壁に閉ざされた空間は床に少し斜めに角度がつけられ、そこにドローイングを展示。また、もう一方の部屋では、立て看のようなパネルに大きな東京の図を制作中だ。英語のタイトルは「TOKIOREMIX」で、Eの上にIが重ねられ、「東京リミックス」とも「ときおりミックス」とも読める。遊び心に満ちた展覧会。
2012/03/12(月)(村田真)
DIAプロジェクトほか
[ベトナム・ホーチミン]
10数年ぶりに訪れたホーチミンには、以前はなかった超高層ビルが出現しており、そのスカイデッキから展望すると、都市計画が整然としていることがよくわかる。市内の庁舎や劇場などの様式建築を見学した後、郊外に向かい、リチャード・ストレイトマター・トランのアトリエ、DIAプロジェクトを訪問した。さまざまなアイデアをもつアーティストであり、部屋には楽器も並んでいた。美術以外に建築やポストモダン系の理論書が多いだけではなく、動植物を育てており、不思議な実験室というおもむきだった。
写真:上=スカイデッキからの眺め、下=DIAプロジェクト
2012/03/12(月)(五十嵐太郎)
林忠彦 写真展 紫煙と文士たち
会期:2012/01/21~2012/03/18
たばこと塩の博物館[東京都]
林忠彦が『小説新潮』に1948年1月号から連載した「文士シリーズ」は、これまで何度も写真展に出品され、写真集として刊行されてきた。坂口安吾、太宰治、織田作之助、檀一雄ら、いわゆる「無頼派」の作家たちのイメージは、このシリーズによって決定されたといってもよい。だが、眼に馴染んだそれらの写真も、あらためて別なくくりで見てみると面白い発見がある。今回の「林忠彦 写真展 紫煙と文士たち」展は、その意味でとても気が利いた企画といえるのではないだろうか。
たしかに1970年代くらいまでの作家のポートレートといえば、くわえ煙草が定番だった。紫煙を燻らせながら沈思黙考し、原稿用紙に向う姿には、「文士」という古風な言い方がぴったりくる。80年代以降になると、「嫌煙」「禁煙」の声が高まり、煙草を吸っている姿を雑誌などの誌面で発現するのは難しくなってくる。先日、ある写真家と話をしていて、煙草を吸っている姿を撮影しようとしたら、同行した編集者からストップがかかり、その作家が激怒したという話を聞いた。そんなことがいろいろな場所で起こっているのではないだろうか。僕自身は煙草を吸わないので、「禁煙」が定着するのはいっこうに構わない。だがこの写真展を見ていると、小道具としての煙草の重要性にあらためて気づかされる。いかにもという雰囲気を醸し出すだけでなく、紫煙がその場の光を和らげるのに効果的に働くことが多いのだ。「作家と煙草」というテーマは、今後も取りあげられていくべきだと思う。
個人的な好みで、出品作から煙草が似合う作家のベスト3を挙げてみることにしよう。3位井伏鱒二、2位三好徹、そして1位は高見順。眉根に皺を寄せて、煙草の灰を灰皿に落とす様が見事に決まっている。
2012/03/13(火)(飯沢耕太郎)
3.11東日本大震災の記録 DVD上映会&講演会
会期:2012/03/13
ホーチミン市人文社会科学大学[ベトナム・ホーチミン]
ホーチミンの人文社会科学大学にて、レクチャーを行なう。昨年訪れたバンコクの大学と同様、1階の吹き放ちの空間=ピロティが積極的に活用されている。風を通しつつ日陰をもうけるバルコニーやブリーズソレイユの多用も熱い国の共通項だろう。一方、まったく違うのはバイクの多さである。建物の中庭など、あちこちの屋外を占拠していた。
2012/03/13(火)(五十嵐太郎)
GALERIE QUYNH/SAN ART
[ベトナム・ホーチミン]
アメリカ軍のもたらした悲劇を伝える戦争博物館や、川の中に浮かぶガウディ的な装飾に覆われた異形の寺院を見学した後、数少ない現代のアートスペースを訪れた。ひとつはベトナムやフランスの作家を扱うGALERIE QUYNHである。普通の店舗が並ぶストリートにおいて唐突にギャラリーが出現し、その内側では二層の良質なホワイトキューブが確保されていた。もうひとつは、ちょうど小泉明郎の映像作品を紹介する展覧会を開催していたオルタナティブスペース、SAN ARTである。これも住宅街の一部を改造して、現代美術の場に変えたものだった。
写真:上=GALERIE QUYNH、下=SAN ART
2012/03/13(火)(五十嵐太郎)