artscapeレビュー

2012年04月15日号のレビュー/プレビュー

大西伸明 展「THROGH」

会期:2012/02/18~2012/03/17

ギャラリーノマル[大阪府]

文房具や脚立などの製品、肉や魚の切り身、蝶、木の枝、石ころといった自然物など、日常で目にするさまざまなものを型取り、リアルに着彩した立体作品や版画作品をとおして、ものごとを“とらえる”というわれわれの視覚や日常の感覚にアプローチしてきた大西伸明。今展では、大西が考案した“スループリンティング”という、インクを吹きつけイメージを定着させる、シルクスクリーンを応用した技法による作品が発表された。版にした画像が吹き付けられたインクで再現されているのだが、吹き付ける距離を微妙に加減するのだそうで、部分的にフィルターがかかった写真のような雰囲気。昨年は美術館や海外での発表も続き、さらに活躍の場を拡げている大西。今後、作品をどのように展開していくのか活躍がますます楽しみだ。

2012/03/17(土)(酒井千穂)

かなもりゆうこ展「Memoriae──メモリエ」

会期:2012/02/27~2012/03/17

ギャラリーほそかわ[大阪府]

かなもりゆうこの新作展。日常の些細なものごとを独特の世界観でひそやかに繊細に表現するその作品はいつもなにか言葉を連想させるもので美しい。今展では映像とインスタレーション作品を発表。パンチングで穴をあけたレース状の白い紙、本の青色の見返しに置かれた小さな折り紙の舟など、いろいろなイメージが会場に散りばめられていて想像を掻き立てる。訪れたのは最終日だったが、この日は「失われた島への到着の仕方」というパフォーマンスも行なわれた。薄い茶色の紙の大地に、貝殻や海の水面の泡などが刺繍された白い布が落とされ、小さな折り紙の舟が青いエプロンの襞の波間に浮かぶ。そんな展開のパフォーマンスに、なにも解説はなかったが、そのイメージは祈りと再生への希望や願いといった言葉が浮かんでくるものであった。


パフォーマンスの様子

2012/03/17(土)(酒井千穂)

gallerism in 天満橋 リバーサイドアートクルージング

会期:2012/03/16~2012/03/21

京阪シティモール[大阪府]

京阪神の14の現代美術画廊がそれぞれに選んだアーティストの作品を展示する「gallerism」。今回は大阪の天満橋駅に直結するショッピングモールが会場となった。各フロアの売り場の前に作品が点在しているのだが、それが店舗のディスプレイのような紛らわしさもありなかなか面白い。たまたま訪れた買い物客の親子だろうか、擬人化した動物などユーモラスな木彫を発表している北浦和也の作品の前からなかなか離れようとしない小さな男の子と、それを宥めるお母さんの様子など、微笑ましい光景も見られて楽しかった。惜しいのは会期が短かったこと。次回にも期待したい。


会場風景

2012/03/17(土)(酒井千穂)

青木野枝「ふりそそぐものたち」

会期:2012/03/01~2012/04/01

ギャラリー21yo-j[東京都]

天井が斜めってるギャラリー空間をいっぱいに使った彫刻インスタレーション。鉄板を細長く溶断したものを束ねてラッパ状の形態をつくり、それを12本林立させている。見上げると12個の鉄の輪が浮かんだようなかたち。各“ラッパ”は下方が細くて床との接点が小さいため不安定に見えるが、鉄の輪は3面の壁との接点で溶接され、また各ラッパも接点で固定されているという。これは力作。いつも思うのは、毎回すごい労力をかけて制作、運搬、設置しているけど、特定の空間に合わせてつくったインスタレーションだから売れにくいし、使いまわしもしにくいし、かさばるから倉庫代も大変だろうに、それでもつくり続ける強靭な意志はどこから来るんだろうということ。

2012/03/18(日)(村田真)

ベン・シャーン「クロスメディア・アーティスト──写真、絵画、グラフィック・アート」

会期:2012/02/11~2012/03/25

名古屋市美術館[愛知県]

アメリカの画家ベン・シャーン(1898-1969)の大規模な回顧展。会場の展示は、社会の不正義に迫り下層労働者の姿などにも目を向けていた時代に始まり、版画、グラフィック作品、戦前の写真やポスター、タイポグラフィなど、そしてアジアや日本をテーマにした作品という四つのセクションで構成されていた。なかでもたいへん興味深かったのは第五福竜丸事件(1954)をテーマにした「ラッキードラゴン」の一連の作品。イラストや絵画など、さまざまなものがあったが、シャーンがこんな作品を手がけていたとは今展で初めて知った。これは1958年から約10年間続けられたのだという。50枚のオリジナル、200枚以上のデジタルイメージが並んだ本人撮影の写真もさることながら、見応えのあるボリュームで、作品だけでなくベン・シャーンの作家像も浮かび上がってくるような内容。4会場を巡回する展覧会で現在は岡山県立美術館で開催中(会期:2012年4月8日~5月20日)。

2012/03/18(日)(酒井千穂)

artscapeレビュー /relation/e_00015665.json s 10026577

2012年04月15日号の
artscapeレビュー