artscapeレビュー
2013年03月01日号のレビュー/プレビュー
生誕100周年記念──中原淳一展
会期:2013/02/06~2013/02/18
日本橋三越本店[東京都]
戦前から戦後にかけて、人形作家、イラストレーター、デザイナー、編集者など、多様な才能を発揮した中原淳一(1913-1983)の生誕100年を記念した展覧会。淳一が手がけた雑誌の表紙画や挿画の原画と人形など約400点を、時代別に四つの章に分けて紹介する。第1章では『少女の友』(実業之日本社)の表紙や挿画、昭和14年に開いた淳一グッズの店「ひまわりや」など、戦後の活躍の原点となった作品が展示されている。第2章では、戦後の『それいゆ』『ひまわり』『ジュニアそれいゆ』などの仕事のなかでも、とくにファッションへの提案が紹介される。第3章は、衣服にとどまらず、家具やインテリアなど、ライフスタイル全般に及んだ淳一の提案を示す。第4章では、1960年に病で倒れたあと、雑誌『女の部屋』(1970)の仕事や人形作品が展示されている。このほかに、中原のデザインしたドレスやインテリアの再現コーナーもあり、とても充実した作品展である。ただし、1946年から1960年頃までの超絶的な仕事ぶりが解説され、彼が遺した言葉が作品の背景にある思想を語る一方で、家族や仕事仲間を含め、彼を取りまく人間関係がほとんど描かれていないために、淳一の人間像があまりに理想化・神格化され過ぎているように思う。
本展は香美市立やなせたかし記念館(高知、2013/4/10~5/20)、そごう美術館(神奈川、2013/6/1~7/15)、阪急うめだ本店(大阪、2013/7/24~8/5)、刈谷市美術館(愛知、2013/9/14~11/3)に巡回する。[新川徳彦]
2013/02/18(月)(SYNK)
宮崎学 自然の鉛筆
会期:2013/01/13~2013/04/14
IZU PHOTO MUSEUM[静岡県]
これはおもしろい。野生動物の生態を記録した写真だが、写し出されているのはクマやサル、カモシカ、フクロウなど、いずれも私たちの自然環境に生息する動物ばかり。彼らの知られざる生態を、野外に設置した赤外線カメラによって隠し撮りした170点あまりの写真が一挙に展示された。
暗闇の中に浮かび上がる動物たちの姿は、まるで劇場でスポットライトを浴びる役者のようで、じつに様になっている。カメラに悪戯するクマの姿は、どこかの大柄なカメラマンのようだ。じつは動物と人間の境界はそれほど明確なものではないのかもしれない。思わず、そんな気にさせられるほど、宮崎の写真は魅力的である。
ただ、だからといって宮崎の動物写真は動物を擬人化する視線に終始しているわけではない。むしろ生物としての動物を徹底的に即物的に見る視線もある。もっとも代表的なのが、動物の屍を定点観測した写真のシリーズだろう。ニホンカモシカの亡骸は、まずウジ虫がわき、他の動物によって毛がむしり取られ、肉を喰われ、やがて雨が骨を崩すと、ゆっくりと土に沈んでゆく。スライドショーで淡々と見せられるので、生物の死の先が自然に直結していることがよくわかる。「土に帰る」というクリシェより、むしろ「自然になる」という言い方のほうがふさわしい。頭蓋骨が最後まで原形をとどめているからだろうか、肉体が土に溶け合い、一体化しているように感じられるのだ。
死を象徴化ないしは抽象化する現代社会の内部ではなかなか見ることができない、むき出しの死を目撃することができる貴重な写真展である。
2013/02/18(月)(福住廉)
プレビュー:瀬戸内国際芸術祭2013
瀬戸内海の12の島+高松、宇野[香川県、岡山県]
会期:春・2013/03/20~2013/04/21、夏・2013/07/20~2013/09/01、秋・2013/10/05~2013/11/04
2010年に第1回が行われ、約93万人もの動員を記録するなど、大きな話題を集めた「瀬戸内国際芸術祭」。2回目の今年は、香川県西部の5島も会場に加わり、全14会場にスケールアップ。会期を3つに分け、約9カ月ものロングラン開催となる。参加作家・プロジェクトも、22カ国・175組(2月時点)となり、会期、規模、内容の多彩さなど、あらゆる面で空前のアート・イベントに成長した。この巨大な催しは、必然的に観客の行動パターンや芸術観にも影響を与えるであろう。それだけに、この第2回展の成否が日本の美術界に与えるインパクトは決して無視できない。
2013/02/20(水)(小吹隆文)
プレビュー:超・大河原邦男 展─レジェンド・オブ・メカデザイン─
会期:2013/03/23~2013/05/19
兵庫県立美術館[兵庫県]
「科学忍者隊ガッチャマン」(1972年)、「タイムボカンシリーズ ヤッターマン」(1977)、「機動戦士ガンダム」(1979)などのアニメ作品でロボットや兵器のデザインを担当し、メカニカルデザインという仕事を確立した大河原邦男。アニメ界の生ける伝説とも言うべき彼の業績を、直筆の設定資料や宣伝ポスターなど400点以上で振り返る。その多くがこれまで門外不出とされてきたものであり、ファンにとっては垂涎の品ばかりだ。大河原本人が登場する対談やサイン会も予定されており、会場はアニメファンの聖地と化すであろう。
2013/02/20(水)(小吹隆文)
プレビュー:特別展覧会 狩野山楽・山雪
会期:2013/03/30~2013/05/12
京都国立博物館[京都府]
天下の覇権が豊臣氏から徳川氏に移った桃山から江戸時代の過渡期、御用絵師集団の狩野派は江戸と京都に分裂した。狩野山楽と山雪は、この激動期に京狩野を率いた初代と二代目である。狩野永徳譲りの気宇壮大さが持ち味の山楽、シュールなまでの個性的な画風を確立した山雪。両者の作品が一堂に会するのは史上初だ(ちなみに、山楽の回顧展は42年ぶり、山雪は27年ぶり)。作品数は、重要文化財13件、新発見9件、初公開6件を含む80件余り。なかでも、ミネアポリス美術館の《群仙図襖》(初里帰り)とメトロポリタン美術館の《老梅図襖》という、元々は表裏をなしていた山雪作品が50年ぶりに再会するのは必見である。
2013/02/20(水)(小吹隆文)