artscapeレビュー
2013年03月01日号のレビュー/プレビュー
渋谷区立松濤美術館改修
松濤美術館[東京都]
渋谷区立松濤美術館が、改修工事のために来年初め(予定)まで休館する。休館中は渋谷区文化総合センター大和田で収蔵品展を開催する予定である。
松濤美術館は静岡市の芹沢銈介美術館(石水館、1981)とともに建築家白井晟一(1905-1983)が最晩年に手がけた作品であり、1981年に開館した地下2階、地上2階の建物である。外側には窓がほとんどなく、内側には噴水のある円形の吹き抜けがある。地下2階は講演会や映画上映に使われるホール、地下1階の主陳列室は1階まで吹き抜けの大きな空間となっている。2階展示室は「サロンミューゼ」と名付けられ、かつてはここでお茶を飲みながら美術品を鑑賞することができた。建物は堅牢で耐震性には問題がないということであるが、開館から32年を経過し内部設備の大規模な改修が必要になった。これまで開館当初の姿がほぼそのままの状態で保たれてきたが、今回の改修でも照明設備の更新とLED化、摩耗した床材の張り替えを除くと、外観、内装の変更はともに最低限に留めるとのこと。白井がヨーロッパで買い付けてきたソファなどの調度類や、彼がデザインした照明具や案内パネルなどは引き続き使用されるようだ。
3月10日(日)まで「渋谷区小中学生絵画展」「渋谷区立小・中学校特別支援学級連合展覧会」(入場無料)が開催されており、展示終了後から休館となる。なお、開館中は受付で申請すると建物の見学と撮影が可能である。[新川徳彦]
2013/02/26(火)(SYNK)
永井一正『つくることば いきることば』
発行日:2012年3月
永井一正の銅版画に、彼自身の覚え書きとポエムをひとつにした詩画集。永井一正といえば、1960年に日本デザインセンターの創設に参加し、札幌冬季オリンピックをはじめ、数々の企業のCIやマーク、ポスターを手がけてきた、日本を代表するグラフィックデザイナーの一人である。1980年代後半から動植物をモチーフとした「LIFE」シリーズのポスターを展開し、2003年から銅版画へと発展する。本書は命をテーマにした銅版画集『生命のうた』(2007)をベースに新作版画とことばを大幅に加えたものだという。とても短いことばなのに、その深さと力強さには心を打たれる。創作者としての長い経験と命の尊さへの思いが凝縮されているからだろう。さらに不思議な鳥や魚、花たちに話しかけられているような独特な雰囲気も魅力的な一冊である。
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わたしが描く動物が人間みたいな目をしているのは、
人間と対等なものとして存在するからということ。
生きものを描くことで
わたし自身が生きる勇気をもらっている。
(永井一正『つくることば いきることば』26-28頁)
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[金相美]
2013/03/01(金)(SYNK)
川床優『漱石のデザイン論──建築家を夢見た文豪からのメッセージ』
夏目漱石の講演録や手紙などをもとに著者自身のデザイン論を著した一冊。武蔵野美術大学で建築を学んだ著者はインテリア出版「ジャパン・インテリア・デザイン」編集部などを経て、現在は株式会社メディアフロント代表を務めている。漱石のデザイン論を期待する人なら、物足りなさを感じるかもしれない。ただ、もともと著者が学生向けの教科書を自費出版したものに加筆し出版したということなので、「文化・歴史的背景 漱石の発言 著者の持論」の構成や内容には十分納得がいく。漱石は文学の道に進む前に建築家を志していた。「自分は元来変人だから、このままでは世の中に容れられない(…中略…)こちらが変人でも是非やって貰わなければならない仕事さえ居れば、自然と人が頭を下げて頼みに来るに違いない。そうすれば飯のくいはぐれはないから安心だというのが、建築科を択んだ一つの理由。それと元来僕は美術的なことが好きであるから、実用と共に建築を美術的にしてみようと思ったのが、もう一つの理由であった」★1と漱石はいう。親友の忠告によって建築家への道は断念するが、本書の随所に見られる漱石の芸術・文明批判は興味深い。[金相美]
2013/03/01(金)(SYNK)
プレビュー:劇団☆死期『ワンナイトレビュー』、大駱駝艦・壺中天公演・村松卓矢『忘れろ、思い出せ』
[東京都]
個人的に今月一番注目しているのは、3月23日に予定されている、森美術館で開催されている会田誠展「天才でごめんなさい」での関連イベント、劇団☆死期の演目2(劇団☆死期 ワンナイトレビュー)。演目1は会田のパートナーでもある美術作家の岡田裕子を中心とした人形劇が上演されるとのことで、こちらも気になるのだが、演目2に出演する高田冬彦と林千歩のパフォーマンスがどうなるのか期待大なのだ。artscapeレビューですでに紹介済みでもある2人★1。どちらも東京藝術大学の大学院修士課程をこの春修了するというとても若い作家なのだが、彼らが得意とするヴィデオ作品の面白さは格別。高田の最新作は卒展で見た。ひとつの身体上で愛をめぐる複数の接触が天使の指示とともに展開される作品は、エロく、不気味で、悪趣味にも映るが、濃密な愛の物語になっていた。林千歩の作品では本人の容姿とは対照的に、しわくちゃのおじいさんのようないでたちで林が登場すると、グロテスクな張りぼての怪物のとともにパフォーマンスする、不可思議で鮮烈なイメージが現われたりする。会田誠との類似性を見出そうとするよりも、ポスト会田世代の作家の躍動それ自体に目を凝らしてほしい。ダンスでは、当レビューではおなじみの壺中天の新作をレコメンドします。今回の振付は村松卓矢が担当。それだけで必見というべきなのだけれど、『忘れろ、思い出せ』のタイトルがまた秀逸(2013年3月15日~24日、大駱駝艦スタジオ 壺中天)。
2013/03/01(金)(木村覚)