2019年12月01日号
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artscapeレビュー

TROPE

2011年05月01日号

会期:2011/03/26~2011/05/15

graf mouth[大阪府]

大阪を拠点にデザインやアート、食に関する活動や商品制作を行なうgrafの新プロダクトブランドライン「TROPE」の展覧会。「TROPE」は、「言葉の比喩的用法/言葉のあや」を意味する英語。木製の組み合わせ家具のパーツにみえる同ラインは、通常のプロダクトのように使用法を限定していない。人々が言葉を比喩的に、曖昧に用いるのと同様、各々の感覚で自由に使えるような道具であることが企図されている。
T-2(商品番号。以下同様)の椅子のように、伝統的な椅子のフォルムに忠実なデザインもあるが、鍬のようなT-5、鋤のようなT-6は2本の直線を組み合わせただけという抽象的なデザインであり、「TROPE」のポリシーをもっとも体現するプロダクト──grafの企図に従えば「道具」──だろう。一番オーソドックスな使い方としては、壁に立てかけて衣服等を吊ることだろうが、会場で流されていた映像では、これらを手に持ってダンスをしたり、T-5を使って座っている人を動かす様子が紹介されていた。
この道具を使ってモダンダンスを踊る光景は確かに魅力的だ。しかし、同じ道具を壁に立てかけ、服や傘や帽子を吊るとすれば、それははたして美しく思えるだろうか。こう考えると、「TROPE」のラインもまた、古今のアヴァンギャルドなデザイナーたちが陥ったジレンマに辛くも陥ってしまっている感がある。そのジレンマとは、練り上げられたフォルムが実際に使用されることでかたちを変えられ、想定外の色彩やテクスチャーを与えられ、ついにはデザイナーの最初の構想が儚くも消え去ってしまうことだ。T-5やT-6がもっとも輝いてみえるのは、おそらくそれらがなにも吊り下げられず、それ自体として空間に存在するときである。ゆえに、ダンスの小道具であるときにはそれは美しい。
もっともこのように考えるのは、筆者の想像力がきわめて貧困であるせいで、商品を手にした人たちからは、grafの意図通り、思いがけない使用法が、なおかつデザインそれ自体がいっそう輝くような使用法が生み出されるかもしれない。そうなれば、新たなフォルムによる新たな機能の触発という、デザイナーたちが(いかに傲慢と言われようとも)追い続けてきた夢に一歩近づくことになる。[橋本啓子]

2011/04/17(日)(SYNK)

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