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artscapeレビュー

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2011年05月01日号

会期:2011/04/02

ヒューマントラストシネマ有楽町[東京都]

なんとも不思議な映画である。物語の骨格はいたって凡庸。快楽に溺れるまま人生の方向性を見失っていたハリウッド俳優が、別居していた娘と向き合うことで未知の方向に踏み出すことを決意するというもの。全速力を出し切れないままコースを延々と周回するスーパーカーをとらえた冒頭のシーンがやり切れない虚無感を、広大な砂漠を貫く一本道を自分の足でゆっくり歩き出す結末のシーンが未来へと踏み出す新たな出発を、それぞれ象徴的に描いていることも、じつにわかりやすい。しかも、舞台の大半は豪奢なホテルで、セレブリティーの私生活をあけっぴろげに披露するような映像がひたすら続く。こうした単純明快な映像はえてして眠気を誘うものだが、ちっとも眠くならないし、ますます画面から眼が離せなくなるのは、いったいどういうわけか。娘役のエル・ファニングがとてつもなくかわいいからなのか、西海岸の乾いた光を巧みに取り入れた映像が美しいからなのか、あるいは「おれは空っぽの人間だー!」と泣きながら絶叫する主人公が笑えるからなのか、よくわからない。そういえば、『ロスト・イン・トランスレーション』も似たような風情が漂っていたから、もしかしたらソフィア・コッポラの特異な才覚は、単純な物語を冗長になる一歩手前のリズムできわどく描き出すところにあるのかもしれない。

2011/04/13(水)(福住廉)

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