artscapeレビュー
トゥルー・グリット
2011年05月01日号
会期:2011/03/18
TOHOシネマズ六本木ヒルズ[東京都]
コーエン兄弟にしては珍しい、王道の西部劇。同時期に公開された『サイレントマン』(2009)がいかにもコーエン流の黒い笑いを伴った不条理劇だったのに対し、本作は父親の敵討ちを果たすために荒野を旅する少女を描いた、立派な物語映画だ。主人公の少女は聡明で理知的、しかも無骨な保安官や強気なレンジャーを従えるほど豪気でもある。百戦錬磨の猛者たちに囲まれたこのような少女像は、おのずとナウシカに代表される宮崎駿のアニメーションを連想させるが、決定的に異なっているのは、コーエン兄弟が映画の終盤で、この少女の行く末を描いていることだ。年齢を重ねた主人公は、かつてと同じように理知的ではあるが、顔の表情は硬く、聡明というよりむしろ高邁な印象を与える。孤独を自尊心で塗り固めるような生き方。必ずしもハッピーエンドとはいえない結末をあえて描き出すところに、コーエン兄弟の良質な悪意が込められているのだろう。
2011/04/14(木)(福住廉)