artscapeレビュー
サンガツ『Catch and Throw Vol.1』
2011年05月01日号
会期:2011/04/29
sonorium[東京都]
60分ほどの演奏の最後、トーンチャイム(ハンドベル)を鳴らしながら、メンバーたちは舞台をぐるりと何周かめぐった。全体としてきわめてシンプルなパフォーマンス、その締めくくりにわずかに演出された印象的なシーン。見ているうちに、このトーンチャイムという楽器こそ、現在のサンガツを象徴するアイテムではないかと思えてきた。一本だけでは単音が鳴るだけなので、メロディを奏でようとすれば、複数の演奏者が協同しなければならない。鉄琴があれば一人で可能なはずだ。ほかの楽器の用い方についても似たところがあって、ドラマーは三人居るのだけれど、三組のドラムスはどれも似た編成だから一人でも可能なパートをあえて三人で演奏しているというように見える。なぜそうしているのだろう。複数の演奏者が協同して演奏することで、リズムやメロディに微妙な「揺れ」が起きる。スティックの扱い方、力の入れ具合といった各演奏者の身体的個性に端を発する「揺れ」だ。「揺れ」が示唆するのは、メンバーの身体が個性を保ちながらも合体しているという事態だろう。この「サンガツという身体」を演奏空間に出現させるために、こうしたユニークな演奏(作曲)形態がとられているのではないか、というのがぼくの解釈。サッカーのパス回しのように、メンバーたちの「パスワーク」がそのまま演奏の表現になっている。その楽しそうな合奏状態こそ、ぼくの感じるサンガツの最大の魅力で、もちろんモノトーンの美しい音世界も素晴らしいのだけれども、まるで中学生の部活動(とくに体育会系)を彷彿させる、合奏する楽しさに満ちたパフォーマンスをこの晩も堪能したのだった。
2011/04/29(金)(木村覚)