artscapeレビュー

ザ・大阪ベストアート展──府&市モダンアートコレクションから

2012年11月01日号

会期:2012/09/15~2012/11/25

大阪市立近代美術館(仮称)心斎橋展示室[大阪府]

欧米に行かなければ見られないような近代美術の名品を多数コレクションに有し、1日も早い開館が待たれる大阪市立近代美術館(仮称)。「ザ・大阪ベストアート展」は、その日本屈指のコレクションと大阪府20世紀美術コレクションのなかから厳選された50点が一堂に会する夢のような展覧会だ。そしてなにをかくそう、作品を選んだのは一般の美術愛好者たち。2012年4月末から7月末まで大阪市立近代美術館コレクションと大阪府20世紀美術コレクションが所蔵する近現代美術の作品100点のなかから、郵送やネットなどによる投票で選ばれた50点が展示されている(一部展示替えあり)。展示作品には、大阪府下の小学生、中学生、美術系高校・大学での投票で上位を獲得したものも含まれる。
一般投票で1位を獲得したのは佐伯祐三《郵便配達夫》(1928)。佐伯は《レストラン(オテル・デュ・マルシェ)》(1927)も3位を獲得し、不動の人気ぶりがうかがえる。以下、2位のモディリアーニを初め、ユトリロやローランサン、福田平八郎、横尾忠則など、有名作家の名作が会場に並ぶ。面白いのは小学生の1位が、一般投票では52位の鍋井克之《兜島の熊野灘》(1965)であること。青と橙の色彩のコントラストやバベルの塔のような島のかたちが子どもたちの感性を刺激したのだろうか。
デザイン部門からは、一般投票で16位、大阪府立港南造形高校で1位を獲得した倉俣史朗《ミス・ブランチ》(1988、製作1989)、およびマジョレル《肘掛け椅子》(1900)、リートフェルト《レッド・ブルーチェア》(1918、製作1950年代)、アアルト《パイミオアームチェア》(1931-32)の4点が選ばれた。4つの椅子は1カ所にまとめて展示されていたが、西洋の椅子3点とともにある倉俣の椅子は、どことなく日本的であるように感じられる。とはいえ、アクリルという現代的な素材で西洋の典型的なアームチェアの外形をかたどり、造花のバラを埋め込んだこの椅子にさして日本的な要素は見当たらない。
なぜ、日本的だと感じるのだろう……もやもやとした感情を抱きつつ、会場にあるコメント集に目をやる。本展では、投票者から寄せられた「作品に対する想い」や「作品にまつわる思い出」をピックアップして紹介しており、その内容はじつに興味深い。倉俣の椅子についてのコメントは、「きれい、美しい」「アート、オブジェ」という言葉が目についたが、ひとつ予想外のコメントがあった。「日本画や着物の柄を連想させる美しさ」という、男性のコメントである。《ミス・ブランチ》に日本的な要素があるとしたら、多分にこういうことであるかもしれない。北欧のアアルトの椅子を「和室に合う」としたコメントもじつに興味深い意見だ。
コメント集があることで、たとえひとりで訪れたとしても、作品に対する想いや疑問を他者と共有でき、意外な見方も発見できる。まして、目の前にあるのが名品であれば素晴らしいことこのうえない。美術愛好者はもちろん、美術に興味がない人にこそぜひ訪れてほしい展覧会である。[橋本啓子]


福田平八郎《漣》、1932年、絹本着色、2曲1隻、157.0×184.0cm、大阪市立近代美術館建設準備室蔵



横尾忠則《龍の器I》、1989年、シルクスクリーン、紙、103.0×73.5cm、大阪府20世紀美術コレクション



倉俣史朗《ミス・ブランチ》、デザイン1988年/製作1989年、アクリル・造花・アルミパイプ、87.5×62.0×60.0cm、大阪市立近代美術館建設準備室蔵

2012/10/16(火)(SYNK)

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