artscapeレビュー

牛島光太郎 展 意図的な偶然

2012年11月01日号

会期:2012/10/03~2012/10/27

LIXILギャラリー[東京都]

アーティストを知らずに個展を訪れたとき、展示された作品を見ていくなかでアーティストの性別や年齢を無意識に判別していることが、よくある。彼ないしは彼女の作品が、おのずとその属性を物語っている(ように感じられる)のだ。どういうわけか、その判定を誤ることは滅多にない。
今回の個展でも、若い女性の作品だと勝手に思い込んでいたが、じっさいはそれほど若くもない男性だったので、驚いた。なぜそのような早合点をしてしまったかというと、展示が日常的なモノと文字を刺繍した布で構成されていたからだ。ティーカップ、靴紐、窓、ドア、レースのカーテン、そして黒耀石。いずれも繊細で、ひそやかな感性を物語るアイテムばかりだ。どうやらモノと言葉が正確に照応していることは、布の表面に描かれた文章を読めば一目瞭然だったが、特筆すべきは、そのテキストが子どもの頃の出来事を克明に綴り、しかもそこで当時の心情を深く再現していたことだった。
個人的で繊細な記憶をもとにした世界の構築の仕方が、女性的だと判断した大きな理由である。むろん、そのような記憶の語り方や記憶そのものも作者の想像の産物なのかもしれない。けれども、そのことを差し引いたとしても、こうした論理で構成されるアートが今日的であることもまた事実である。

2012/10/11(木)(福住廉)

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