2021年12月01日号
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artscapeレビュー

人造乙女博覧会III

2012年11月01日号

会期:2012/10/08~2012/10/20

ヴァニラ画廊[東京都]

人造乙女、すなわちラブドールの展覧会。老舗のオリエント工業による3回目の博覧会である。
展示されたラブドールは6体。肢体はもちろん、肌や唇の質感、眼の表情など、きわめて高度な再現性に文字どおり度肝を抜かれた。顔の造作がやや一面的すぎるきらいがあり、アニメやマンガの強い影響力が伺えたが、それを差し引いたとしても、この造形力はずば抜けている。見ているだけで人肌のぬくもりが伝わってくるかのようで、その生々しい感覚に思わず戦慄を覚えるほどだ。これに声や人工知能がインストールされるとしたら、いったいどうなってしまうのだろうか。
しかも、今回の展示の中心は、ラブドールと家具を一体化させた「愛玩人形家具」。腰にテーブルを装着したバニーガールの乳首から赤ワインや牛乳が飛び出たり、重厚な本棚の中に棚板を突き破るかたちでラブドールが屹立していたり、実用的なのか冗談なのかわからない造形物で、ますます混乱させられる。
展示されたラブドールは基本的に触ることはできないが、会場の一番奥に展示された一体のラブドールだけは例外で、係員の女性に両手を消毒スプレーで除菌することを促されたあと、直接手を伸ばすことが許された。何より驚かされたのは、肌の質感よりも、その温度。限りなく肉体に近い造形性を散々眼にしてきたせいか、脳内にはそのぬくもりが自動的に再生されていたが、じつのところラブドールの肌は思っていたほど暖かくはなかったからだ。とくに冷たいわけではないが、温かいわけでもない。期待はずれというか、一安心というか、とにもかくにも目を疑うどころか、自分の知覚を根底から激しく揺さぶられる経験だった。これはもはや立派なアート作品である。
いま振り返ってみれば、あの人肌のギャップは、人間とラブドールを限りなく近接させながらも、ラブドールがラブドールであることを人間に辛うじて知覚させる、最後の一線だったのかもしれない。だが、そのことを理解しつつも、いずれ超えてしまうのが人間の業なのだろう。

2012/10/11(木)(福住廉)

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