artscapeレビュー

瀬戸口大樹「不在」

2010年04月15日号

会期:2010/03/01~2010/03/13

ビジュアルアーツギャラリー・東京[東京都]

毎年、東京ビジュアルアーツ写真コースの卒業制作の審査をしている。瀬戸正人氏、鳥原学氏、三橋純氏らと提出者全員の作品に点数をつけ、その上位30人ほどにプレゼンテーションをしてもらって最優秀作品を決める。いつもかなり面白い作品が出てくるので楽しみにしているのだが、今年は特にレベルが高かった。そこで最終的に残ったのが、今回ビジュアルアーツギャラリー・東京で個展を開催した瀬戸口大樹の作品「不在」である。
中国・四川省の少数民族の村を訪ねて撮影したカラーのドキュメントだが、チベットに近いこともあり、鹿やイノブタを生け贄に捧げるシャーマニズム的な儀式が受け継がれている。それを目の当たりにして帰国したとき、そこに確かに在ったはずの現実感が「薄れていく」ことに気づいたのだという。写真を通じてそれをもう一度甦らせようという試みが、ある意味でシャーマンの行為と同一のものであることに、瀬戸口ははっきりと気づいている。さらに、やはり中国で撮影したパソコンの組立工場の女子工員たちの写真を、アップルのコンピューターの画面に映し出した状態で撮影して同時に展示するなど、「存在」と「不在」の関係を批評的に問い直そうという意図も伺える。みずみずしい映像感覚と知的な構成力とがマッチした、なかなかスケールの大きなシリーズに仕上がっていた。
ちょっと気になったのは、現地の滞在日数を尋ねたところ、6日間という答えが返って来たことだ。わずか6日間でよくこれだけの作品をものにできたともいえるのだが、反面そのあまりの手際のよさに危惧感を覚えてしまう。手早くまとめることだけを優先すると、肝心なものを取り落とすことにもなりかねないからだ。

2010/03/02(火)(飯沢耕太郎)

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