2021年12月01日号
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artscapeレビュー

福原義春「私と蘭138」

2010年04月15日号

会期:2010/03/06~2010/03/18

和光並木館5階 和光並木ホール[東京都]

資生堂名誉会長、東京都写真美術館館長をつとめ、数々の公職を兼任している福原義春。えてして、彼のような立場の人の写真は大仰で権威主義的になりがちなのだが、意外にも今回の展示で見ることができたのは、慎ましやかな、被写体を謙虚に受けとめて撮影した蘭の花の写真だった。
蘭の栽培は父の福原信義から受け継がれた趣味で、被写体となる花も自分の温室で大切に育てたものだという。それを「開ききるちょっと手前」、あるいは「枯れはじめてきた時」つまり、最も華やかで生命力がみなぎる瞬間を選び、鉢ごと自室に移して黒バックで撮影する。撮影のポジションは「虫の視点」を意識して決めている。つまり受粉のために虫たちを「着陸標識のように」引きつけるその唇弁の位置が、蘭が最も蘭らしい姿をあらわす場所なのだ。そこを強調するようにフレーミングしていく。このような発想は、アーティストというよりはどちらかといえば生物学者や園芸家のものといえそうだ。よく知られているように、福原義春の叔父は日本の「芸術写真」のパイオニアのひとりである福原信三であった。彼が写真家として仕事をする時には、どうしてもその存在を意識しないわけにはいかなかっただろう。彼の「実証的」とさえいえる堅実な視点のとり方は、そのあたりの試行錯誤の結果ではないだろうか。
それにしても、蘭は写真に撮影されるためにこの世にあらわれ出た花のようにも思える。実物よりも二次元のフレームに封じ込まれてより輝きを増す、花の造形美の極致がそこにはある。

2010/03/06(土)(飯沢耕太郎)

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