artscapeレビュー

椎名誠「五つの旅の物語──プラス1」

2010年04月15日号

会期:2010/02/17~2010/03/29

キャノンギャラリーS[東京都]

人気作家の椎名誠が東京写真短期大学(現東京工芸大学)の出身であることは、意外に知られていないのではないだろうか。写真歴は長く、最初に撮影したのは小学校6年生の時で、被写体は「線路工夫と父親」だったという(ただし父親は後ろ姿だけ)。1991年からは『アサヒカメラ』に「シーナの写真日記」を連載しはじめた。2009年11月号で200回を超え、同誌の連載最長記録を更新中である。
今回の展示は1980年以来の「五つの旅」の写真をまとめたもの。「チャーリーのイッカククジラ狩り」「ロシアの極北狩猟民族イーゴリさんと犬の話」「砲艦リエンタール号マゼラン海峡をいく」「チベットの聖山カイラス巡礼記」「タクラマカン砂漠『桜蘭』探検記」というテーマで、テキストをつけた写真が並んでいる。写真そのものは、あまり構図や光に頓着しないで、そこにあるものをそのまま素直に写すというストレートな記録に徹しているのだが、文章の語りの呼吸が絶妙なのでその世界に引き込まれていってしまう。その写真=物語の構築力はさすがとしかいいようがない。もう少し「写真家」としての力を高く評価されてもいいのではないだろうか。「プラス1」として、ごく最近、2010年1月の津軽半島の旅の写真が別に展示されていた。こちらも、寒さが身にしみてくるような旅の感触が、縦位置の写真と文章からじわじわと伝わってくる。なお講談社から写真集『五つの旅の物語』も刊行されている。

2010/03/03(水)(飯沢耕太郎)

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