2021年10月15日号
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artscapeレビュー

表現者、田淵行男III 本に全てを捧げた人

2010年04月15日号

会期:2010/02/23~2010/06/20

田淵行男記念館[長野県]

ネイチャー・フォトの優れた成果を顕彰する第3回田淵行男賞の審査のため、長野県安曇野市の田淵行男記念館に行ってきた。開設20周年を迎える同館は、日本の山岳写真と昆虫生態写真の草分けのひとりである田淵行男の作品や遺品を収蔵し、意欲的な展覧会を開催してきた。今回は、生涯に特装本などを含めて36冊の写真集、エッセイ集を刊行した彼の「本造りという要素」に注目した特別展である。
田淵は若い頃から、手作りのアルバムや写真集を制作し、蝶や昆虫の細密なスケッチ画を残している。そのデザイン感覚とデッサン力は、並の画家やグラフィック・デザイナーなどお呼びもつかないほど高度なものであり、後年になってその才能のすべてを惜しみなく本造りに注ぎ込んだ。写真集を作る時には、一ページごとに詳細なスケッチ画を貼り込んだダミーを制作し、レイアウトや文字指定もほとんど自分で行なった。その細部まで愛情を注ぎ込んだ造本は、独特の味わいを備えており、既に写真家、文章家として評価の高い田淵のデザイナーとしてのもうひとつの顔を浮かび上がらせている。彼の多くの著作が絶版になっているいま、復刊や文庫への収録などの企画をもっと積極的に進めていくべきだろう。
なお、今回の田淵行男賞は、審査員の全員一致で北海道札幌市在住の中島宏章の作品「BAT TRIP」に与えられた。コウモリの緻密な生態観察の成果を、おしゃれで説得力のある写真物語として展開した素晴らしい作品である。ネイチャー・フォトの分野も、ようやく新世代の胎動が感じられるようになってきたようだ。

2010/03/11(木)(飯沢耕太郎)

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