artscapeレビュー
城林希里香「Lines, Beyond」
2010年04月15日号
会期:2010/03/02~2010/03/31
ギャラリー冬青[東京都]
城林希里香は1993年に大阪芸術大学写真学科卒業後、渡米してスクール・オブ・ヴィジュアルアーツ、ニューヨーク校で学び、現在はニューヨークを拠点として活動している。ギャラリー冬青での個展は昨年に続いて二度目。コンスタントにレベルの高い風景作品を発表し続けている写真家である。
彼女の6×6判カメラによる画面には、必ず水平線、または地平線が写り込んでいる。その「Lines」が写真と写真を結びつけるとともに、見る者の想像力を大きく伸び広げていく役割を果たす。「地平線の向こう側に大地が広がるように見えない線がつながっている。その見えない線上に私たちの知らない人々がいて、私たちの知らないところでさまざまな事が起きている」ということだ。だが、彼女の撮影のやり方は、特定の場面や出来事に意識を集中させるのではなく、どちらかといえばゆるやかに拡散させていくことをめざしているようだ。「Lines」が引かれている場所も決して厳密ではなく、画面の下部をふらふら上下している。淡いパステルトーンの色彩の効果もあって、気持ちよく、開放的な気分に誘い込まれる写真群といえるだろう。これはこれでいいのだが、「平穏な風景」をうっすらと覆っている不穏さ、微妙な違和感をもう少し強く押し出してもいいのではないかと思う。
なお、展示にあわせて冬青社から写真集『Beyond』も刊行された。展示には都市の眺めもかなりあったのだが、こちらは砂漠、海辺など自然風景が中心になっている。
2010/03/02(火)(飯沢耕太郎)