artscapeレビュー

北野謙「溶游する都市」

2010年04月15日号

会期:2010/03/05~2010/03/21

UP FIELD GALLERY[東京都]

北野謙はパリ・フォトなどのイベントにも積極的に参加して、国際的に注目を集めはじめている写真家。代表作はさまざまな地域や職業の人たちの姿を一枚の印画紙に重ね合わせてプリントした「our face」のシリーズだが、実はそれ以前の1989~97年に本作「溶游する都市」を制作していた。今回はそれをまとめた大判写真集『溶游する都市/Flow and Fusion』(MEM INC)の刊行にあわせた個展である。
長時間露光によって、街を行き過ぎる群衆や風に揺らぐ樹木などがブレることで、何とも形容しがたい白昼夢のような光景が出現する。手法的には特に目新しいものではないが、場所の選択と画面構成力が優れているので、見る者を引き込む魅力を備えた作品に仕上がっている。2009年のパリ・フォトでは、オリジナル・プリント付きの特装版を含めてこの写真集が60冊売れたそうだ。202ドル(日本での販売価格は1万8900円)という値段を考えると、いかに彼の写真が玄人受けするいぶし銀のようなテイストを備えているかがわかるだろう。北野のようにオリジナル・プリントと質の高い写真集で勝負する写真家がもっと増えてくるといいと思う。

2010/03/18(木)(飯沢耕太郎)

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