artscapeレビュー

2012年06月01日号のレビュー/プレビュー

ロバート・プラット展─幻小屋と飾りの隠者

会期:2012/05/05~2012/05/27

ハイネストビル[京都府]

自然と人工物の対比を、デジタル画像のピクセルを思わせる描法で表現していたロバート・プラット。本展では、ヨーロッパの森の隠者と東洋の禅画をもとにした絵画作品を発表した。また、会場中央にはテントと稲藁を用いた小屋が設置されており、その内部ではカメラ・オブスキュラで作品が見られるようになっていた。さらに、会場内はスモークが立ち込めていて、まるで薄い霧のなかで作品を見ているかのようだった。これらは、絵画を「見る」行為を再考するための積極的な演出であろう。彼は前回の個展後に英国に帰国したので、今後作品を見る機会は滅多にないと思っていた。それがわずか2年で再会できたのだから嬉しい限りだ。聞けば、現在はアメリカのミシガン大学で教鞭を執りつつ制作しているとのこと。今後も日本で継続的に個展を行なってほしい。

2012/05/12(土)(小吹隆文)

草間彌生 永遠の永遠の永遠

会期:2012/04/14~2012/05/20

埼玉県立近代美術館[埼玉県]

草間彌生の近作を見せる展覧会。《愛はとこしえ》シリーズと《わが永遠の魂》シリーズからあわせて80点あまりが一挙に展示されたほか、南瓜をモチーフとした立体作品や巨大なバルーンの作品、鏡と水によって光を無限反射させる《魂の灯》なども発表された。
たしかにエネルギーに満ち溢れてはいる。むしろ以前にも増して横溢しているかのようだ。だが、それを的確に感じるには、少々会場が狭すぎた。団体展のような二段がけの展示方法はともかく、一つひとつの絵をじっくり鑑賞させるための適度な距離感が満足に確保されていないため、絵のなかの息が詰まるような圧迫感や何かに追われるような焦燥感はよく伝わってくるものの、草間絵画の真骨頂ともいえる抜けるような解放感はあまり感じられなかった。この美術館の天井の低さが、そのような印象を強くしていたことはまちがいないだろう。
「永遠の永遠の永遠」と言うのであれば、もっと広大な空間でその無限反復を見せるべきだったように思う。

2012/05/12(土)(福住廉)

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今和次郎 採集講義──考現学の今

会期:2012/04/26~2012/06/19

国立民族学博物館[大阪府]

建築家で、考現学の創始者として知られる、今和次郎(1888-1973)のユニークな活動を概観する展覧会。今が残したスケッチ、写真、建築やデザイン図面などが紹介されている。今は、昭和初期の急速に都市化していく東京の様子や人々を観察し記録する(考現学)一方、民家研究の分野においても重要な業績を残している。さらに、農村住宅改善案の設計や住宅・共同作業場の設計などにも携わった建築家でもあった。「私はつくづく、自分はいま現在のこと、人々が働き、楽しみ、いろいろくふうをこらしているさまに興味をもつ性格だったのだと思う。だからこそ震災後の焼け跡に、つぎつぎと仮小屋がたてられ、人々が焼け落ちた過去のなかから新しい生活をたてなおす姿をみて、ほんとうに感動できたのだし、考現─いまを考え、未来をつくることの必要を痛感したのであったと思う」と今はいう★1。彼の活動の本質を表わす言葉ではないかと思った。[金相美]
★1──本展カタログ『今和次郎 採集講義』(青幻舎、2011)。

2012/05/13(日)(SYNK)

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大正から始まった日本のkawaii(カワイイ)展──ファンシーグッズを中心に

会期:2012/04/05~2012/07/01

弥生美術館[東京都]

日本独特の文化であるといわれる「かわいい」。そのの起源はどこにあるのだろうか。四方田犬彦『「かわいい」論』(ちくま新書、2006)によれば、「かわいい」の源流は11世紀初頭の『枕草子』にまで遡ることができるという。ただし、ここで主に論じられているのは受け手の完成から見た「かわいい」の歴史である。
 それでは、ファンシー・グッズやアニメに現われる「かわいい」キャラクターの起源はどこに求められるのであろうか。弥生美術館で開催されている本展はいわゆるファンシー・グッズに焦点を当てて、その系譜をたどる。ここでは、大正3年に竹久夢二が開いた「港屋絵草紙店」をファンシー・グッズの元祖とする。夢二の店では、千代紙、封筒、半襟、うちわ、浴衣等々を扱い、若い女性であふれていたという。ファンシー・グッズにとってなによりも重要であったのは、西洋の様式や、異国情緒であった。千代紙などの女性向けの紙製品は以前から存在していたものの、そこには友禅模様や千鳥など日本古来の文様が用いられていた。それに対して、夢二は西洋のカードや書物からヒントを得て、紅天狗茸のようなモチーフ[図1]や、アール・ヌーヴォー様式のデザインを商品に取り入れたのである。小林かいちの絵葉書や絵封筒にはモダンな画風や薔薇の花といったモチーフが現われ、高畠華宵が描く少女の服にはハート模様や鈴蘭があしらわれた[図2]。戦後、女性向けの雑誌『それいゆ』『ひまわり』『ジュニアそれいゆ』を主宰した中原淳一のひまわり社が開いた小物や雑貨を扱う店は少女たちで賑わったというが、扱われた商品も、そのデザインも非日本的、非日常的なものであった。内藤ルネはヨーロッパのモードを取り入れた少女を描き[図3]、パンダをいち早く日本に紹介している。ハワイに遊学した水森亜土は、フラダンスを踊る女の子など、明るくセクシーなイラストで少女たちを魅了した。ハローキティはロンドン生まれという設定である。ファンシー・グッズ、「かわいい」キャラクターの歴史は、この100年間の日本人にとっての異国イメージ変遷の歴史ととらえることもできよう。

1──竹久夢二《木版千代紙》、大正3~5年、港屋

2──高畠華宵《便箋表紙》、大正末~昭和初年代
3──内藤ルネ《マスコット・バッグ》(『少女ブック』昭和37年4月付録)

ファンシー・グッズをテーマにすることは、つくり手と同時に使い手に焦点を当てることでもある。本展では大正生まれから平成生まれまでの女性たちのファンシー・グッズについての証言をパネル展示することで、時代の感覚、空気を振りかえる。展覧会図録は書籍として出版されており、書店で入手可能である(『日本の「かわいい」図鑑』河出書房新社、2012[図4])。日本発の文化である「かわいい」が世界の注目を集め、「kawaii」が世界共通語となりつつある今、その起源と本質をていねいに探る好企画である。[新川徳彦]

4──『日本の「かわいい」図鑑』(河出書房新社、2012)

2012/05/14(月)(SYNK)

平田さち展─せまく広く、もっと大きくもっと小さく

会期:2012/05/03~2012/05/20

ギャラリー・パルク[京都府]

不定形にカットした大小のカッティングシートをガラス窓に貼り(会場の画廊は、壁面のうち2面がガラス窓になっている)、床には同様のピースが立体化したオブジェを配置するインスタレーションを発表。また、ガラス窓の一部は薄いブルーとピンク系の絵具で四角く塗られていた。彼女の作品は過去に何度か見たことがあるが、私が見たなかでは今回が最も成功していたと思う。その理由は、平面と立体の組み合わせが効果的だったからだ。ただ、本展では課題も浮き彫りになった。立体の仕上げが雑なのだ。この点を改善すれば、彼女の作品はさらに魅力を増すであろう。

2012/05/15(火)(小吹隆文)

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