artscapeレビュー

2013年10月15日号のレビュー/プレビュー

反重力 展

会期:2013/09/14~2013/12/24

豊田市美術館[愛知県]

豊田市美術館の「反重力」展が素晴らしかった。中村竜治は細いピアノ線で小さな円をつくって積み上げ、環状に並べ、大きな見えないリングを生みだし、ここでも驚異的なインスタレーションを実現している。宿命的に重力に縛られた建築側から興味深い、このテーマに即した作品群は、個人的に好みのものが多く、あいちトリエンナーレとセットで鑑賞するとより楽しめるのではないか。変動する現実を受けとめる「揺れる大地」と、ユートピア的な世界を感じさせる「反重力」は相互補完的に読みとれるだろう。

写真:上=中村竜治、下=中谷芙二子

2013/09/21(土)(五十嵐太郎)

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高橋匡太「Glow with City Project」

会期:2013/09/21~2013/09/22

白川公園、名古屋市科学館、長者町、オアシス21、愛知芸術文化センター[愛知県]

高橋匡太のGlow with city projectに参加した。約1時間ほど市内を歩く1,000人の提灯行列だが、すべての提灯と、オアシス21、科学館のプラネタリウム、愛知芸術文化センターなどのランドマーク的な建物の色の変化が同期するものだ。高橋にとって新しい試みとなる参加型の都市プロジェクトは、前回のトリエンナーレにおける池田亮司のサーチライトによる光のスペクタクルとは違う方向性である。池田のプロジェクトは圧倒的な光の力で崇高な現象を生みだすタイプだったが、今回のものは、それ以上の強い光を求めるものではない。一つひとつはささやかな蛍のような光だが、多くの市民がそれを手にもって参加することで、都市の夜の風景を再発見するような試みだ。2日目は、ちょうど芸術文化センターの10階から、都市の光とシンクロする1,000人の提灯行列のフィナーレをずっと俯瞰できた(音楽は聴こえませんが)。行列に参加すると全体像は見えなくなるが、上から見ると、光の集合体の全容がよくわかる。

2013/09/21(土)(五十嵐太郎)

あいちトリエンナーレ2013「揺れる大地──われわれはどこに立っているのか:場所、記憶、そして復活」

会期:2013/08/10~2013/10/27

愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、長者町会場、納屋橋会場ほか[愛知県]

東日本大震災後のアートを意識し、世界各地で起きている社会の変動と共振するというテーマで開催されている第2回目のあいちトリエンナーレ。このときは長者町会場を見る時間はほとんどなかったのだが、愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、納屋橋会場などを歩いて回った。愛知県美術館、名古屋市美術館など、震災のほか、都市、建築をテーマにした大型作品や映像作品が目立った今回、それぞれの国で起こっている社会問題を扱った作品も多かった。全体に、見て考え自分なりに咀嚼すべき意義深い内容の展示ばかりではあったが、私が見た限りでは絵画作品はほとんどなく、バランスが偏っているようにも感じた。個人的にもっとも印象に残っているのは納屋橋会場で発表されていた名和晃平のインスタレーション作品。会場の床面からわき立つように発生している大量の泡とその光景はじつに壮観な眺めだった。

2013/09/22(日)(酒井千穂)

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都市とシンクロする1,000人の提灯行列 高橋匡太《Glow with City Project》(あいちトリエンナーレ2013)

会期:2013/09/21~2013/09/22

ルート:白川公園・名古屋市科学館→長者町→オアシス21→愛知芸術文化センター[愛知県]

「あいちトリエンナーレ2013」の作品のひとつで、9月21日と22日の二日間だけ開催された高橋匡太による提灯行列のプロジェクト。これは、名古屋市科学館、長者町のアーケード、オアシス21、愛知芸術文化センターなど、ライトアップされた各建物の光と、1,000人の参加者たちの持つ提灯のLED電球の光がシンクロして、紫、青、緑、赤、と色とりどりに変化していくというもの。高橋を先頭にして行列に参加する人々が白川公園を出発し、長者町のアーケードを抜けてゴールの愛知芸術文化センターまで約1時間かけて歩くという催しだった。一日目の9月21日には800人ほどの参加者だったと聞いたが、二日目のこの日はもっと多かったかもしれない。夕方、白川公園のスタートからゴールまで私も行列について行った。歩いていると道路脇のあちこちから「わあ、なにあれ!」とか「見てあれ!」とか「綺麗な行列が通ってる!」とかいろいろな声が聞こえてくる。先回りして歩道橋や大通りの反対側などからも眺めてみたが、柔らかく変化していく提灯の光の波が幻想的で美しい光景だった。朝から美術館や各会場の展示を見てまわり、私はこの行列がスタートする夕方にはすでに疲労しきっていたのだが、この日見た作品のなかでもっとも感動したプロジェクト。見ることができて本当によかった。高橋匡太さんに感謝。


提灯行列の風景
撮影=牧野和馬


ゴール地点(愛知芸術文化センター前オアシス21より)
撮影=牧野和馬

2013/09/22(日)(酒井千穂)

伊丹豪「Study」

会期:2013/09/21~2013/10/03

POST[東京都]

伊丹豪は1976年、徳島生まれの写真家。2000年代以降、個展やグループ展への参加を中心に積極的に作品の発表を続けてきた。視覚的なセンスのよさは以前から際立っていたのだが、何を目指そうとしているのか、ややわかりにくいところがあった。ところが、8月にRONDADEから最初の作品集として刊行された『STUDY』と、それを受けて開催された東京・恵比寿のPOST(旧Lim Art)での同名の個展を見て、彼の写真の方向性がかなりきちんと定まってきたように感じた。
作品集は凝りに凝ったデザインワークによる造本で、最初に黄色の地に「Study/ Go Itami/ Born In Tokushima, Japan/ 1976」とのみ記されたページが50ページほど続き、その後でようやく写真のページが始まる。29点の写真はすべて縦位置で、最初の一点を除いては「上下2枚で写真が立ちあらわれるように」レイアウトされている。どうやら写真家よりもデザイナー、編集者主導の造本だったようだ。この写真集を踏まえた展示では、逆に「デザインの枠からふたたび写真が抽出」されることが目指されており、「1枚の写真、また、空間を支配する群れとして提出」されていた。確かに、伊丹本人の意図が、展示によってくっきりと見えてきたように見える。会場には作品を色面ごとに分解・分割して表示したサンプルも掲げられており、それを見るかぎり伊丹の関心は都市の街頭を色面の重なりとして再構築することだと思われる。ただ、写真集には室内に置かれた鉢入りの植物、液体の表面、重なり合った足(あるいは手)のクローズアップなど、異質な要素から成る作品もおさめられており、多様な方向に伸び広がっていく可能性を感じる。さらに「Study」を推し進めていくことで、より鮮明な世界像が浮かび上がってくるのではないだろうか。

2013/09/23(月)(飯沢耕太郎)

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