2020年10月15日号
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artscapeレビュー

2013年10月15日号のレビュー/プレビュー

アンリアレイジ展 A REAL UN REAL AGE

会期:2013/08/30~2013/09/16

パルコギャラリー 名古屋パルコ西館8F[愛知県]

名古屋PARCO GALLERYで開催されたアンリアレイジ展がよかった。球、正四面体、立方体を包む服(が、人も着用可)、極細や極太の人体用の衣服、光をあてると分子構造が変わり、色が変わる服など、次世代のファッションの前衛を感じることができる。アンリアレイジは、形や比例など、規範となる身体の前提をズラしたところから、ファッションの可能性を切り開く。その概念的操作とデザインの対応は、建築的にも興味深い。

2013/09/15(日)(五十嵐太郎)

イリ・キリアン「East Shadow」

会期:2013/09/14~2013/09/16

愛知芸術劇場 小ホール[愛知県]

イリ・キリアンの「EAST SHADOW」を観劇した。寄せては引く波のように、絶えず繰り返される向井山朋子のピアノのリフレイン。舞台の右半分は超高解像度の映像で記憶を追想するような男女の動きのシーン、左半分は右と同じ室内が実物として存在し、実際のパフォーマーの抑制された動きがある。そして感情の波の高まりで出現する津波の映像。静謐でパワフル。コミカルな部分もありながら悲しい。実体と映像が交錯しつつ、とりわけ影のふるまいが美しい。普遍的でありながら、東日本大震災を想起させ、あいちトリエンナーレのテーマにも即している。恐るべき完成度で、世界初演の新作が発表された。

2013/09/15(日)(五十嵐太郎)

あいちトリエンナーレ2013 プロデュースオペラ プッチーニ作曲「蝶々夫人」

愛知芸術劇場 大ホール[愛知県]

あいちトリエンナーレ2013のプロデュースオペラ「蝶々夫人」を観劇した。一言でいうと、(最も)美しい「蝶々夫人」である。音楽布陣が最高とされるポネル演出の「蝶々夫人」の映像を何度も見ていたので、この演目の日本だからこそできる優位性を使い、特に視覚的な面においてはこれをはるかに凌駕していた。卒論で古今東西の「蝶々夫人」の舞台美術を研究した建築出身の演出家・田尾下哲ならではの空間表現である。登場人物が日本家屋の特性を説明する冒頭のシーンでは、見ている前で可動の建具=障子が次々と入り込み、柱が設置される。そして劇中は、物語の展開に合わせて、次々とシフトを変えていく。多層のレイヤーは、日本的な奥行き表現である。が、オペラの舞台の比例に合わせ、垂直に引き伸ばされた巨大な建具、段々になった床面、そしてはっきりした中心軸と奥に向けて傾斜する床は、西洋の透視図法的な空間も想起させるだろう。和洋が出会う演目におけるハイブリッドな空間である。以上で建築的なフレームは完成するが、ここに命を吹き込むのが、女方の歌舞伎俳優・市川笑三郎が振付を担当したことによる、オペラの歌手とは思えない、「日本的」というべき優雅な所作だった。とりわけ、最初の蝶々さんの登場から友人たちが歌うシーンは別格。ほかにも動く絵のような美しいシーンが幾つかあった。第一幕フィナーレの星空に包まれた二重唱。第二幕第一部の黒い床の全域に降り積もる花。そして第一部から第二部への切り替えで、海を眺めて立ち尽くす蝶々さんと夜から朝への時間の変化(この演出なので、ここに休憩を入れないのもいうなづける)。蝶々さん=安藤赴美子も素晴らしい。田尾下の「蝶々夫人」は。この演目に内在するオリエンタリズムへの批判やひねった解釈とも違う。むしろ、日本人も忘れている「日本的」な美はこれだと、ストレートに提示したものだ(たぶん海外はもっと驚く)。舞台の美しさを通じて、物語に没入させ、音楽の美しさを改めて感じさせる演出。通常の音楽ファンのみならず、美術ファンにも建築ファンにも楽しめるような総合芸術としてのオペラは、当初の目的どおり、まさにあいちトリエンナーレにふさわしいものだった。なお、世界には数えきれないほど、トリエンナーレはあるが、オペラも含まれるのはあいちだけである。

2013/09/16(月)(五十嵐太郎)

丹野志摩 写真展「やさしい風」

会期:2013/09/04~2013/09/29

Window Gallery Oct[京都府]

昨年、島根県隠岐郡西ノ島町で開催された「隠岐しおさい芸術祭」の際に出会った西ノ島在住のフォトグラファー丹野志摩さんの写真展が京都で開催されていて足を運んだ。約20年前、撮影旅行で訪れた西ノ島の雄大な景色に魅了され、その半年後には移住したという丹野さんの作品を実際に見るのは今回初めて。展示されていたのは空の色を反映して移り変わる海の表情を撮影した作品群。タイトルにも写真にも西ノ島という土地の生活や自然を慈しむ眼差しがそのまま表われていた。それにしても、人生を変えてしまう体験をした丹野さん自身に興味がある。いつか話を聞いてみたいものだ。

2013/09/19(木)(酒井千穂)

大野麥風 展「大日本魚類画集」と博物画にみる魚たち

会期:2013/07/27~2013/09/23

東京ステーションギャラリー[東京都]

大野麥風ってぜんぜん知らなかったけど、『大日本魚類画集』をはじめとする博物画を手がけた日本画家だと聞いて見に行く。麥風は初め油絵を学び、途中で日本画に転じたというが、この経歴は博物画に向いていたかもしれない。なぜなら博物画は西洋流の緻密な観察力と写実性に加え、日本画的なパターン化した線描が必要だからだ。彼が原画を描いた『大日本魚類画集』を見ると、主役の魚だけでなく岩や水草まで描き込んであるが、その描写はまさに日本画的に様式化されている。ただしよく観察してはいるものの、たとえば魚の胸ビレの付け根に注目すると、解剖学的にありえない付き方をしているものもあって、やっぱり日本画だなあと思う。ちなみにこの画集、戦前から戦中にかけて毎月1点ずつ計72点を刊行したが、500部限定の会員制による会費で賄われたという。版画ではしばしばこうした販売方式をとるが、現代美術にも応用できないものか。ともあれ、同展には麥風だけでなく、江戸時代の本草画から平成の杉浦千里による甲殻類のイラストまで集められ、満足のゆく展観になっていた。

2013/09/19(木)(村田真)

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