artscapeレビュー
2014年09月15日号のレビュー/プレビュー
だまし絵II──進化するだまし絵
会期:2014/08/09~2014/10/05
Bunkamuraザ・ミュージアム[東京都]
だまし絵というと絵画のなかでも「詐欺」っぽくて芸術性は劣ると思われがちだが、極論すればすべての絵画はだまし絵といえなくもない。ただ詐欺性が濃いか薄いか、芸術性が高いか低いかの違いがあるに過ぎない。今回の「だまし絵」展は現代美術を中心に、詐欺性が濃く、しかも質の高い作品が集められている。現代美術中心とはいえ、プロローグにはアルチンボルドやヘイスブレヒツ、視点によって変容するアナモルフォーズ絵画など古典的作例が見られ、とくに本の集積で人物を表わしたアルチンボルドの《司書》が来ていたのはうれしい。近現代では、エッシャーとかマグリットとかヴァザルリといった詐欺性の濃いだまし絵は想定内だが、デイヴィッド・ホックニーのコラージュ写真、高松次郎の影の絵、チャック・クローズの指で描いたスーパーリアリズム絵画、杉本博司の「ジオラマ」シリーズ、トーマス・デマンドの模型写真、ヴィック・ムーニーズのゴミを集積した絵画、須田悦弘の植物彫刻など「だまし絵」で括るには申しわけないような良質のアートもあって、けっこう楽しめた。次回はぜひ、なんでこんな作品が10億円もするの?っていう「商業的だまし絵」のカラクリを紹介してほしい。ジェフ・クーンズとか、ダミアン・ハーストとか。
2014/08/08(金)(村田真)
札幌国際芸術祭2014 1日目
会期:2014/07/19~2014/09/28
札幌駅前通地下歩行空間(チ・カ・ホ)、北海道立近代美術館、札幌市資料館、札幌大通地下ギャラリー500m美術館[北海道]
まずは札幌駅からチ・カ・ホを散策する。他都市にはない幅の広い地下の歩行空間の両サイドの交互に作品が現れる。このエリアの作品は、流れを感じることをテーマとしたものだ。歩行者に反応しながら、機械仕掛けで大量のカラーペンを動かし、無数の線と豊穣な色彩を生む、菅野創の作品。またA.P.I. の北極、山川冬樹の川を題材とした作品が印象に残る。続いて、北海道立近代美術館へ。ここは新作なしだが、スボード・グブタやアンゼルム・キーファーなど、安定した旧作を用い、テーマに沿った渋くてカッコいい展示だった。青木淳も入り、全体的に空間の使い方もうまい。中谷宇吉郎は理研にいたことを知る。彼は美的感覚をもつ詩人のような科学者だったが、いまの理研は金をとってくる人が偉いのかと思うと隔世の感がある。
続いて、札幌市資料館へ。YCAM+五十嵐淳による巨大な遊具は子供でにぎわっていた。資料館の1階では、この建物のリノベーション・コンペの一次入選案を紹介している。2階に展示されていた深澤孝史はあいちトリエンナーレにおけるナデガタ・インスタント・パーティ的な作品だった。玄関では、都市空間のサウンド・コンペの音を流す。これは坂本龍一っぽいプロジェクトである。
大通公園の11丁目札幌ドイツ村でビールを楽しんだ後、地下空間の500m美術館に向かう。このエリアは時間をテーマとし、作家は札幌と所縁のある人を選んでいる。現実の映像が揺らぐ伊藤隆介、空間を効果的に使う今村育子、都現美にも出ていた宮永亮、模型に見えない坂東史樹、家型を積む武田浩志らの作品が興味深い。
夜は狸小路商店街7丁目界隈で飲食する。このあたりは古いアーケードが残ったおかげなのか、雰囲気のある小さなお店が集積し、異国のような不思議な場所になっていた。その後、すすきの祭りでにぎわう街を歩く。水商売を含む、近隣のお店による屋台が出店し、所狭しと並べられたテーブル、大勢の人が道路をうめつくす。北海道の短い夏を徹底的に楽しもうとする、すごい迫力だった。
2014/08/09(土)(五十嵐太郎)
「キュレトリアル・スタディズ06:ヨシダミノルの絵画 1964-1967」講演会+現代家族パフォーマンス
会期:2014/07/16~2014/08/31
京都国立近代美術館 4F コレクション・ギャラリー内[京都府]
具体のメンバーの一員・ヨシダミノルの絵画における、時代感覚を改めて考え直す小企画。地元京都だけに資料の調査などが行われているよう。この日は、ヨシダミノル一家による「現代家族」によるパフォーマンスと、藤本由紀夫による講演会。藤本氏による、ヨシダのニューヨークでのパフォーマンスの解説では、特に、当時プラスチックという素材にいち早く着目していたことに触れ、サウンドアート、パフォーマンスの分野で斬新な発想をアイデアを振りまいていた憧れの存在だった、という紹介。「現代家族」は、ヨシダの残した言葉とともに、静かに、マグマのような衝動をゆっくりと振動させるような、ヘビーなパフォーマンスだった。
2014/08/09(土)(松永大地)
札幌国際芸術祭2014 2日目
会期:2014/07/19~2014/09/28
札幌芸術の森美術館、北海道庁赤れんが、清華亭、北3条広場[北海道]
札幌国際芸術祭の2日目は、霧の立ちこめる札幌芸術の森美術館へ。静謐なイメージは共有しつつ、道立近美の展示とは対照的に、いまの作家による新しい作品を中心に展開する。きれいにまとまった内容で、方向性はICC的+土着性という感じか。平川祐樹、栗林隆、宮永愛子、カールステン・ニコライ、松江泰治らが印象に残る。札幌芸術の森では、復原移築された有島武郎旧邸の2階にて、2作品を展示していたが、もっと空間との関わりをもてたら良かったように思う。もっとも、大正初期に建設された和洋折衷の旧邸が、建築もその歴史も面白い。有島が東京に移住してからは、北海道大学の寮などに使われ、廃寮で取り壊しの危機のとき、市民の保存運動が起こり、建物が生き残ったという。
昨年は芸術の森美術館まで行きながら、時間がなくパスした野外美術館に初めて足を踏み入れる。彫刻の森において、芸術祭で新作を足すのは厳しいと思っていたが、スーザン・フィリップスによる音の作品を既存の彫刻にかぶせるのは素晴らしいアイデアだった。常設では、ダニ・カラヴァンによる幾何学式庭園の伝統を継ぐ現代的ランドアートが良かった。
市街地に戻り、北海道庁赤れんが特別展示の「伊福部昭・掛川源一郎」展へ。ともに北海道と所縁のある作曲家と写真家にフォーカスをあてつつ、アイヌや中谷宇吉郎への補助線を引き、本展を補完する内容である。二台のピアノに見立てた楽譜の展示台のデザインがカッコいい。また掛川が10代の頃に自分で制作した本が超緻密だった。3月に見学したばかりの建築だが、毛利悠子の作品があるので、清華亭を再訪する。主に和室を使い、チ・カ・ホと同系統の作品群を設置していたが、圧倒的にこちらが素晴らしい。どこかとぼけて、かわいらしい、日用品たちが小さなエネルギーのサーキットをつくり、動いたり、光ったり。空間と絶妙な相性だった。
そして北3条広場で催された大友良英らのフェスティバルFUKUSHIMA! へ。あいちトリエンナーレのオアシス21に比べて、決して好条件とは言えない会場であり、遠藤ミチロウが病気で休み、また7月22日の能舞台に続き、運悪く雨だったが、イベントは決行され、盛り上がっていた。「ええじゃないか音頭」など、多様な要素をミックスした311以降の現代音楽がとてもいいと再認識する。
2014/08/10(日)(五十嵐太郎)
宝塚歌劇100年展──夢、かがやきつづけて
会期:2014/08/05~2014/09/28
兵庫県立美術館[兵庫県]
前日、中学校の同期会のため伊丹のホテルに宿泊。朝、台風が近づくなかJR伊丹駅から神戸方面に向かうが、暴風雨のため目的の灘の一駅手前の六甲道で停車、そのまま待てど暮らせど動かず2時間近く足止めを食らう。JRに平行して走る阪神と阪急は動いているのに、暴風雨でそこまで歩けないし、タクシーもほとんど走ってない。たった一駅がこんなに遠いとは。仕方なく駅の近くで昼飯食って、びしょぬれになりながらタクシー拾って美術館へ。結局カネは3倍、時間は4倍ソンした。別にそこまでして見たい展覧会ではないんだけど、それに東京にも巡回するんだけど、ここまで来て見ないで帰るのはシャクだからね。でもこういうときの美術館は狙い目、客がほとんどいないからゆっくり見られる。さすがの宝塚展も、会場にいた1時間ほどのうちにわずか3組の客しか見かけなかった(その3組はどこからどうやってきたんだ?)。その代わり監視のおばちゃんがやたら多い。展示品が細々してるうえ、熱狂的ファンが少なくないから監視の目を光らせているのだろう。まあ宝塚展に限ってはほかの美術展と違い、観客が多いほうがにぎやかで楽しいかもしれない。展覧会は、劇団創立以来100年の歩みをたどりつつ、スターのポートレート、大道具小道具、衣装、ポスターなどを展示している。大道具などは近くで見るとチャチイものだが、衣装やポスターは有名デザイナーに依頼するなど徐々に進化を遂げているのがわかる。でも展覧会としてはアートとしての宝塚というより、一般のヅカファン向けの催しといった風情だ。そのため美術館の意地を見せようとしたのか、最後に小出楢重、小磯良平、小倉遊亀、中山岩太ら阪神モダニズムの作品を特集し、面目を保っていた。
2014/08/10(日)(村田真)