2019年11月15日号
次回12月2日更新予定

artscapeレビュー

2014年11月01日号のレビュー/プレビュー

秋山正仁 展──Sweet Home

会期:2014/09/29~2014/10/04

Gallery K[東京都]

秋山正仁は山梨県在住の美術家。古きよきアメリカの心象風景を長大なロール紙に色鉛筆で描いた絵画作品を、ここ数年、同ギャラリーで定期的に発表してきた。その絵は、偏執的でありながら色鉛筆の淡い色彩が不思議な浮遊感を醸し出しており、その絶妙な二重性が観る者の視線を大いに惹きつけてきた。
だが今回の展示は、これまでにない展開を見せた。絵画作品そのものは従来どおりの作風だったものの、秋山本人が会期中つねに在廊し、スライドギターを演奏しているのだ。ライ・クーダーのような哀愁を帯びた玄音とともに絵画を鑑賞させるという仕掛けである。
とにかく秋山が奏でる音色がすばらしい。表面的には、その音と絵画で表現されているアメリカの風景とが共振することで、見る者の視線を絵画世界の内側に巧みに誘導するという効果がある。だが、それ以上に驚かされたのは、会場にいる自分の身体が動かし難くなってしまったことだ。いや、決して感動のあまり身体が凝固してしまったというわけではない。エンドレスに奏でられるギターの哀切に満ちた音を耳に絵を見ていると、いつまでもその空気に包まれていたいという欲望が湧き上がってくるのだ。逆に言えば、美術ないしは絵画が、その鑑賞にあたって、どれほど見る者に緊張感を強いているかを、まざまざと実感させたのである。
ところが、秋山が秀逸なのは、「美術」と「音楽」を掛け合わせることで、そうした陶酔感を演出しながらも、同時に絵画においては、ある種の覚醒を呼び起こすような主題を描き含めているからだ。絵の中には、アレサ・フランクリンやエルヴィス・プレスリーに混じって、幼少時と思われるオバマ大統領の姿が認められる。彼はデビルから星条旗を受け取っている。この当時、権力と引き換えに魂を売ってしまったがゆえに、アメリカ合衆国の現在があるのだろうか。芸術の政治性とは、政治的な関心や主題が含まれる作品だけを指すのではない。それは、芸術というある種の夢物語の最中にあってなお、政治的な意識を覚醒させることなのだ。

2014/10/02(木)(福住廉)

田中真吾 個展「す  あ。ラ  火 ─ 見  極」

会期:2014/10/03~2014/10/31

eN arts[京都府]

炎を題材あるいは素材にした作品で知られる田中真吾の新作展。着色した合板をラフに引きちぎる、炎で炙るなどした後、それらと焼け焦げた角材、炎で溶かされたビニールなどを組み合わせて構築した作品を発表した。これまでの彼の作品は主に紙を素材にしており、色合いも白と黒(焼け焦げた痕跡)の2色だった。色彩を得ると同時に立体コラージュのような様相を呈した新作は、多くの人に驚きをもって迎えられるだろう。筆者はこれまでに何度も彼の個展を見てきたが、失望を味わったことがない。展覧会のたびに着実な進化を遂げる田中は、野球でいえばイチローや青木宣親のようなアベレージヒッターと言えるだろう。

2014/10/03(金)(小吹隆文)

村野藤吾──やわらかな建築とインテリア

会期:2014/09/03~2014/10/13

大阪歴史博物館[大阪府]

大阪を拠点に活躍した建築家・村野藤吾(1891-1984)の作品と人物の魅力を、家具・設計図・建築部材・彼の愛用品・建築のパネル展示等、およそ200点を通じて紹介した展覧会。今年は村野の没後30年にあたる。本展を通覧すると、その活動期間の長さを考えてもなお、とりわけ関西の都市街にいかに村野建築が多く貢献を成したか改めて実感される。同時に、当時の潮流「モダニズム」から一歩離れ、独自の創造的世界を追求した村野の姿が描かれる。それは、主要な百貨店やホテルの商業・宿泊施設等の内装・細部の仕事に顕著に見られるだろう。展示された実物や写真、例えば階段手すりの波打つカーヴや星をちりばめた天井等、その繊細でいて幻想的な芸術的効果は観者の感覚に強く訴えかける。本展でもっとも際立っていたのは、家具デザインの品々。喫茶《心斎橋プランタン》の椅子や衝立の柔らかな曲線と華奢な形、さまざまな材質を組み合わせて用いる面白さと彼の仕事の徹底ぶりには、強く魅入られた。そのほかの椅子群、傘立てや照明器具も多様性に満ちて興味深く、村野の人となりまで感じられるようだった。[竹内有子]

2014/10/04(土)(SYNK)

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こども展──名画にみるこどもと画家の絆

会期:2014/07/19~2014/10/13

大阪市立美術館[大阪府]

鑑賞後、幸せな気分になる展覧会はそれほど多くないけれども、本展はその稀有な例。フランスのオランジュリー美術館で開催された展覧会を再構成し、19-20世紀に活躍した47人の画家たちの「子ども」をモデルにした作品86点を集めたもの。近代絵画の巨匠たちの日本初公開の作品が多いのも見どころのひとつ。「序章」ではおもに新古典主義の画家たち、「第1章:家族」では家族の絆をテーマとした作品、「第2章:模範的な子どもたち」では成長過程にある子どもの多様な姿を捉えた作品を扱い、「第3章:印象派」「第4章:ポスト印象派とナビ派」「第5章:フォーヴィスムとキュビスム」「第6章:20世紀のレアリスト」では、それぞれの前衛運動の主要な画家たちの作品群を見ることができる。作家とモデルの間の親密な空気、描かれた子どもたちのこちらを見返す無邪気でいきいきとした個性溢れる眼差しに強く魅了される。画家のモデル/子どもに対する愛情・温かい視線がダイレクトに伝わり、多くの鑑賞者にほほ笑みをもたらしていた。[竹内有子]

2014/10/04(土)(SYNK)

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松本瑠樹コレクション「ユートピアを求めて──ポスターに見るロシア・アヴァンギャルドとソヴィエト・モダニズム」

会期:2014/09/30~2014/11/24

世田谷美術館[東京都]

DCブランド「BA-TSU」の創業者・デザイナーの松本瑠樹氏(1946-2012)が蒐集したポスター・コレクションから、20世紀初頭に現われたロシア・アヴァンギャルドのポスター約180点を紹介する展覧会。展示は三つの章で構成されている。第1章は「帝政ロシアの黄昏から十月革命まで」。革命前のヨーロッパとロシアにおけるポスターデザインの交流によって生まれた作品や、革命時、閉鎖された商店の窓に貼られた「ロスタの窓」というポスター(というよりも、絵入り壁新聞に近い)が紹介される。第2章は「ネップとロシア・アヴァンギャルドの映画ポスター」。ソビエト政府は識字率が低い国民を教育する手段として映画産業を国有化し、映画の制作に乗り出す。そうした映画を宣伝するためのポスターを手がけたステンベルク兄弟らデザイナーたちの仕事が紹介されている。第3章は「第一次五カ年計画と政治ポスター」。1929年に採択された第一次五カ年計画の政治ポスターに顕著なのはフォトモンタージュ技法である。背景には写真印刷技術の発達もあるだろうが、空想ではないリアルな未来像を人々に見せるというポスターの意図が見える。1930年代になるとすべての政治ポスターが共産党中央委員会の指導下にある出版所から発行されるようになり、ロシア・アヴァンギャルドの夢見たユートピアは潰え、社会主義リアリズムの時代となる。
 本展のメインは第2章の映画ポスターである。そのラインナップを見ていて興味深いのは、そこにたくさんのアメリカ映画が含まれていることである。全体の三分の一が外国映画のポスターだ。ソビエト政府は自ら映画の制作を行なっていたものの、国産の映画だけでは需要を満たせなかったために海外から多数の娯楽映画が輸入され、各地で上映された。デザイナーたちはどちらのポスターも手がけており、ソビエト製の映画であっても海外の映画であっても、デザインの様式には違いが感じられない。内容によってモチーフは違っていても、いずれも「ロシア・アヴァンギャルドの映画ポスター」なのだ。この様式はけっして革命プロパガンダのためだけの様式ではない。じっさい、これらのポスターはその政治的な背景とは関わりなく人々を魅了してきた。1930年に日本でソビエト映画ポスターの展覧会を開いたロシア文学者・袋一平はそのご子息の言葉によれば「生涯をソビエトに対する政治的な関心やコミットメントもなくロシアと付き合った」★1という。本展に出品されているポスターを蒐集された松本瑠樹氏もまた同様だったようだ。ご子息のルキ氏によれば瑠樹氏は表現に魅了されたのであり、ソビエトポスターの蒐集は共産主義へのシンパシーによるものではないという。たしかに瑠樹氏のポスター・コレクションはフランスのポスター画家・カッサンドルの作品から始まり、アメリカ、フランス、ドイツ、日本など多岐にわたっており、ソビエトのポスターはその一部に過ぎない。逆にいえば革命期に花開いた前衛のポスター芸術は、同時代においてはその革新性ゆえに国境を越えて注目され、また現代においてはポスターの持つ普遍的な力の象徴として、人々を魅了し続けているのだろう。[新川徳彦]

★1──岡田秀則「旅の終わり──袋一平とソビエト映画ポスター」『ロシア・アヴァンギャルドの映画ポスター──東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵 無声時代ソビエト映画ポスター《袋一平コレクション》』展覧会図録(2009)6頁。

2014/10/05(日)(SYNK)

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2014年11月01日号の
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