2019年10月15日号
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artscapeレビュー

2014年11月01日号のレビュー/プレビュー

小野田賢三──Vacant / Occupied

会期:2014/09/06~2014/10/19

ya-gins[群馬県]

群馬県在住のアーティスト、小野田賢三の個展。会場近隣の洋装店「ニャムコム」の店内にある商品やディスプレイ、備品などをすべて展示会場内に移設した。通常は白い壁の空間が、鮮やかな色彩とおびただしい物量で埋め尽くされたわけだ。むろん店舗をまるごと移設したので、主人も展示会場に常駐し、通常どおり営業している。ギャラリーがショップに様変わりした、その劇的なインパクトが面白い。
一方、もとの「ニャムコム」には、がらんとした空間をそのままに、小野田によるミニマムな作品が展示された。薄暗い照明の下、床にはいくつものビールケースが積み上げられ、奥の暗がりからは、かすかにノイズのような音が漏れてくる。聞けば、ビールケースはシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色でそろえたという。すなわちCMYKの4原色によって構成された、日本の極めて庶民的なミニマル・アートというわけだ。
庶民的なミニマル・アートと言えば、かつて岡本光博が、誰もが知るお茶漬けの素の商品パッケージの図柄を連想させる作品を発表したことがあるが、小野田の場合、作品の焦点は表象批判や制度批判にあるというより、むしろ空間と作品の転位にあるように思われた。ギャラリーのホワイトキューブの中にビールケースの作品を展示しても、中庸なミニマル・アートとして見過ごされていたに違いない。日本家屋の、しかももぬけの殻の中で、そこにふさわしいミニマルなかたちを提示したからこそ、庶民的なミニマル・アートが成立したのだ。
作品と空間は分かち難く結びついている。美術館や画廊の空間で展示されるミニマル・アートが、現代美術の歴史を学ぶ者にとっての「教科書」の役割以上の同時代性を失ってしまったいま、小野田が空間と作品を入れ替え編集しながら見せた庶民的なミニマル・アートは、ミニマル・アートを今日的に蘇生させる延命策として考えられなくもない。だが、廃墟のような空間の強い印象から言えば、むしろミニマル・アートを庶民の地平に引き降ろすヴァンダリズムとして考えた方がしっくりする。ビールケースの物体は、その手つきを思えば、ミニマル・アートの伝統や文脈を適切に踏まえた美術作品というより、街のストリートに書き殴られたグラフィティーや幼児が楽しむ積み木に近いからだ。
ことはミニマル・アートにとどまらない。あらゆるアートを引きずり降ろす作業が待望される。

2014/10/12(日)(福住廉)

「私の選んだ一品2014」展

会期:2014/10/04~2014/10/25

東京ミッドタウン・デザインハブ[東京都]

グッドデザイン賞の審査委員71名が、それぞれ気になる受賞作のひとつを取り上げて紹介する展示会。会場には審査委員たちの顔写真とプロフィールが書かれたパネルがずらっと並んでいる。パネルの裏側には各審査委員が選んだ「一品」の写真と短い製品解説。その右側には審査委員がその「一品」を取り上げた理由が記されている。会場のエントランスに数点のプロダクトが置かれている以外は、写真とテキストによるパネルのみ。小冊子のかたちでもいいし、ウェブ媒体で公開されていてもおかしくない内容であるが、会場に足を運んでもらい、読ませる工夫としてとても良く考えられている。床に敷かれた奇妙な形のカーペットが、奥から見ると文字になっているという仕掛けも楽しい。会場デザインはMOMENT。[新川徳彦]


2014/10/17(金)(SYNK)

田辺知美+川口隆夫『めっひっひ まあるめや「病める舞姫」をテキストに、2つのソロダンス』(特別公開リハーサル in 女子美術大学)

会期:2014/10/18

女子美術大学(杉並キャンパス)[東京都]

最近、川口隆夫の活動が活発だ。8月から始めた『Slow Body』の公演は続いているし、毎週のようにタイトルの異なる上演に挑んでいる。その最中での今作上演。11月に青森で予定されている本公演のための公開リハーサルとして、川口が今年度非常勤講師を務める女子美術大学を会場に、教え子たちが運営に関わるほのぼのとしたムードのなか行なわれた。全体60分ほどのなか、前半に踊ったのは田辺知美。畳一畳の上で踊る。時折、暗黒舞踏の創始者・土方巽が書いた小説『病める舞姫』の一部分がスピーカ越しに朗読される。例えばそれは「寝たり起きたりの病弱な人が、家の中の暗いところでいつも唸っていた。畳にからだを魚のように放してやるような習慣は、この病弱な舞姫のレッスンから習い覚えたものと言えるだろう」なんて台詞。確かに田辺の身体は畳の上で唸る。時折痙攣する。しかし、その状態を起こすための作為がなんとなく透けてしまっていて、あまり乗れない。とくに全身を(顔までも)覆う肌色のタイツはエロティックと見えなくもないけれど、一方で身体のあり様はタイツのせいで隠れてしまう。最後に、自らストッキングを破るのだが、その手の非ダンス的な能動性がダンスを消している。田辺がそうして身体を隠したのと対照的に、川口はどこまでも曝す気満々だ。田辺と交代で舞台に現われた川口は顔にオレンジの袋を被り、足に赤いジャージを履いて、あとは裸だった。ぎょっとさせられたのはジャージの股に開いた「穴」。それは明らかに男性にはない位置に開いたものだ。ろくでなし子(事件)へのアンサー? そんな気持ちも過りつつ、興味深かったのは、これが女性でなく男性だからこその表現に映ったこと。女性にはもともと女性器はあるので、このように衣服で暗示してもわざとらしい。男性にはない分、この「穴」が男性の股にあると暗示として機能しやすい。そう思っていると、浄瑠璃の一節を川口は朗誦しながらパフォーマンスを続けた。自分で自分の身体を縛るような奇妙な悶絶の時間もあった。「踊り」ではなく「パフォーマンス」であることが、田辺と比べ川口を自由にしているようにも見えたし、個人的には相対的により土方性を感じた。扉を開け放ち、中庭に出ると、二枚の畳を合わせて、そこに馬乗りするのだが、尻が脱げて、全裸になってしまうと、なんとなく、土方へのテンションが緩くなってしまった。土方に対峙するのは並大抵のことではない。なにより、テキストを朗読しただけで、その独特な「湿っぽさ」に心奪われて、結局土方の強さばかりが目立った時間だった。

2014/10/18(土)(木村覚)

Q『油脂越しq』(『flat plat fesdesu vol. 3』Aプログラム)

会期:2014/10/15~2014/10/21

こまばアゴラ劇場[東京都]

Qの演劇は微妙なバランスを保って進む。人間へのまなざしというか距離感が絶妙で、人間の暗部を暴露するとはいえ、それを遂行する際の対象に向けたまなざしが誠実で優しい。チェルフィッチュや岡崎藝術座に似てしばしば役者は観客に顔を向けて独白する。中身は「現実にそんな告白されたらちょっと困るな」と思うような性的な妄想だったりするのだけれど、特徴的なのは、肉体に宿した突き上げてくる衝動がすべての言葉の動機になっているところだ。肉体が言語を生む。そんなスタンスの劇団はこの世にそんなに多くは存在しない。そのうえで付け加えたいのだが、コメディともとれるユーモアの要素が今回際立っていた。まさに絶妙な人間への距離感がそれを可能にしていた。30分程の短編。コンビニの女店員2人と魚肉ソーセージを大量に購入する女1人の物語。3人それぞれ性の記憶と妄想にとりつかれている。共通の趣味(GLAYのファン)が元で男の部屋に遊びにいった太めの女。58才の男と恋愛している若い店員。2人の存在に刺激されてオナニーばかりしているもう1人の店員。今回のQがユーモラスだなと思わされたのは、そうした3人の性衝動が、いつものQのように背後に暴力性を漂わせていながらも、「止むに止まれぬ内側からの突き上げ」として描かれていたからだろう。人間のおかしさや悲しさやかわいさが、それを源に溢れ出していた。魚肉ソーセージは、たんに魚だけではなく、人間も含めた多様な動物たちの肉をミンチにしてできているという妄想が語られる。いつものQらしい異種性交のイメージがコンパクトにこの妄想に収められた。それにしても、市原佐都子の、肉体と肉体が接触することへの執拗な興味というのは強烈で、ぜひここだけ取り出して現代美術のフォーマットに落としてみて欲しいなどと思ってしまう。そのインパクトはより広くそして的確に鑑賞者に受容されるだろうとも。

2014/10/19(日)(木村覚)

プレビュー:若手芸術家・キュレーター支援企画 1floor 2014「またのぞき」

会期:2014/11/01~2014/11/24

神戸アートビレッジセンター[兵庫県]

神戸アートビレッジセンター(KAVC)が2008年から毎年開催している、若手芸術家・キュレーター支援企画。出展者たちは展覧会実施に関わるさまざまな段階、場面に直接的に関与し、KAVC内のギャラリーとコミュニティスペースを舞台にした企画をつくり上げる。今回選出されたのは、内田聖良と貴志真生也の2作家。内田は、書き込みや染みなどの手垢がついた古書を販売するオンラインプロジェクト《余白書店》を共同で運営しており、貴志は、ブルーシートや角材、発泡スチロール等を駆使して、既存の価値観や認識では捉え切れない空間をつくり出す。本展のタイトルである「またのぞき」とは、景勝地の天橋立で行なわれる股間から景色を見る行為のこと。視点を切り替えることで事物の新たな価値観を発見する両者の作品に共通する言葉として選ばれた。

2014/10/20(月)(小吹隆文)

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