artscapeレビュー

2009年05月15日号のレビュー/プレビュー

椿会展2009

会期:2009/04/07~2009/06/21

資生堂ギャラリー[東京都]

地下のギャラリーへ降りるとき、「こんなところに手すりあったっけなあ」と思ったら祐成政徳の彫刻だった。メインギャラリーには伊庭靖子と丸山直文の対照的な絵画が並び、奥のギャラリーには塩田千春が古いミシンの周囲にびっしりと毛糸を張り巡らせている。見事に棲み分けられていて、さびしいほど。もっとケンカしてほしいなあ。

2009/04/16(木)(村田真)

吉田暁子「視/夜(しや)意義黎明」

会期:2009/03/25~2009/04/18

東京画廊[東京都]

古屏風や蛍光色のビニールに、これまでになくハデな原色で描いている。他人の絵だろうが壁の汚れだろうがなんでもいいのだが、なにかをきっかけに吉田はイメージを紡ぎ出していく。ちょうどグラフィティのように。だから作品にならないほうがおもしろいかもしれない。

2009/04/16(木)(村田真)

Arup Japan 設立20周年記念展覧会

会期:2009/04/17~2009/04/26

ニコラス・G・ハイエックセンター 14階 イベントホール「シテ・ドゥ・タンギンザ」[東京都]

アラップ・ジャパン設立20周年を記念した展覧会。坂茂設計、アラップ・ジャパン構造設計による銀座のニコラス・G・ハイエックセンターの最上階で開かれた。企画・展示ディレクターはオープンAの馬場正尊氏。オブ・アラップは、構造設計で有名だが、実際には、設備設計、ファサード・エンジニアリング、プロジェクト・マネジメント(PM)も含めた総合的なエンジニアリング・コンサルタントである。ヨーロッパではファサードの重要性が高い。意匠、構造、設備に加えてファサードという分野が独立していて、ファサードの専門家もいる。アラップ・ジャパンは、ガラスメーカーやサッシュメーカー以外の側面から、日本にファサード・エンジニアリングを持ち込んだといえるのではないだろうか。アラップ・ジャパンの構造部門だけではなく、設備、ファサード、プロジェクト・マネジメントの各分野の成果と、その関連なども見ることができ、インテグレート(統合)されるエンジニアリングの状況がわかるよい展覧会だと思った。会期が短かったのが大変惜しい。展覧会に合わせ、『Arup Japan 建築のトータル・ソリューションをめざして』(誠文堂新光社)という本が出ており、そちらも必見であろう。

2009/04/17(金)(松田達)

瀬戸内国際芸術祭東京プレス発表会

会期:2009/04/17

ヒルサイドプラザ[東京都]

来年の夏から、瀬戸内海東部の7つの島で開催が予定されている国際芸術祭のプレス発表。「タイミングよく金融危機になった。“幸せとはなにか”を考えるチャンスだ」と語る総合プロデューサーの福武總一郎も、「これまで島の孤立性をマイナスに見てきたが、それは海を通じての交流の可能性でもある」と述べる総合ディレクターの北川フラムも、逆境をプラスに転じる天才かもしれない。それだけに「こういうアートイベントやるとき反対にあったことしかないが、今回は好意的すぎて恐い」という北川の感触は、なにか予言的だ。
瀬戸内国際芸術祭2010:http://setouchi-artfest.jp/

2009/04/17(金)(村田真)

杉本博司「歴史の歴史」

会期:2009/04/14~2009/06/07

国立国際美術館[大阪府]

遅ればせながら、金沢21世紀美術館から大阪の国立国際美術館に巡回して来た杉本博司の「歴史の歴史」展を観ることができた。既に新潮社から刊行された図録を兼ねた作品集に目を通していたので、出品内容はわかっているつもりだった。だが、当然といえば当然だが、書物の上の図像と実物の展示の印象はかなり違う。印刷されたイメージでは、作品そのものの大きさや物質感が把握できないので、展示を観て「なるほど」と納得させられることが多かった。
展示は大きくB2FとB3Fの会場に分かれている。B2Fは「化石」から始まって杉本自身の「海景」シリーズ、鎌倉~室町時代の古面などが仰々しい照明によって浮かび上がり、正直、その重苦しさに圧迫感を感じた。だがB3Fの近代以降の「歴史の歴史」の展示になると、杉本の思考の運動が軽やかな諧謔の精神とともに伝わってきて、思わずチェシャ猫のようなにやにや笑いが広がってくるのを抑さえることができなかった。特に最後のパートのマルセル・デュシャンの「大ガラス」+「放電場」のフォトグラムのシリーズは、観客を煙に巻く杉本の「マッド・サイエンティスト」ぶりが堂に入っていて、大いに楽しめる。杉本の仕事が「笑える」ものであることを、僕自身はじめて認識することができたし、本人もそれをわかってもらいたかったのではないだろうか。
それにしても、これだけの展示を自分の作品とコレクションだけでやってのけるというのは凄過ぎる。コレクターとしての無償の情熱こそが、彼の作品制作の最大の動機ということなのだろう。

2009/04/19(日)(飯沢耕太郎)

artscapeレビュー /relation/e_00001239.json s 1204028

2009年05月15日号の
artscapeレビュー