artscapeレビュー
2009年07月15日号のレビュー/プレビュー
wah「すみだ川のおもしろい」展
会期:2009/06/20~2009/07/20
すみだリバーサイドホール・ギャラリー/アサヒビール本部ビル1階ロビー[東京都]
アーティスト集団wah(ワウ)が隅田川界隈を歩き、「こんなことがあればおもしろい」というアイディアを募って、実現できるものは実現していくプロジェクト。船上に風呂を設けて湯に浸りながら川下りを楽しむ「湯舟」、隅田川で捕った小魚やエビを材料につくる「すみだ川丼」、水着姿の男たちが川べりで準備体操をして川に飛び込む(ポーズだけ)など、どれも笑ってしまいそうなアイディアばかり実現させた。驚いたのは、これらはかつて隅田川がきれいだったころ、当たり前のように行なわれていたことだ。それがいまではお笑いネタになってしまうという皮肉。いやー隅田川は深い。
2009/06/30(火)(村田真)
松山賢「地図」
会期:2009/06/06~2009/07/18
ギャラリー・ショウ・コンテンポラリー・アート[東京都]
ますます悶絶技巧の冴える松山画伯だが、今回は女性の肌にレース模様が重なる艶かしい絵。思い出すのはギュスターヴ・モローの描くサロメ、なかでも《刺青のサロメ》と通称される絵だ。これはサロメの白い裸身がアラベスクでびっしりとおおわれ、題名のごとくそれが刺青にも見えるというもの。実際には衣装の模様なのだが、それを描きかけのまま残すことで異様な効果を生み出した。モローはルネサンス以来対立する線と色という絵画の二項対立を、1枚の絵のなかで融合させずにあえて分離することで、線描重視の古典主義にも色彩重視のロマン主義にも与しないみずからの立場を表明したのだ。してみると、松山画伯もついに古典主義ともロマン主義とも訣別するお覚悟を決められたのだろうか。19世紀かお前は。
2009/06/30(火)(村田真)
青木野枝作品展「空の粒子」
会期:2009/06/09~2009/07/01
ツァイト・フォト・サロン[東京都]
中国あたりで撮ったらしいボケ写真を丸く切ってつなげたり、四角いまま並べたりした写真作品。というかコラージュ作品。というか、ひょっとして彫刻作品? みたいな、どうにも落としどころが見つからない座り心地の悪い作品ではある。それゆえクセになりそうな。
2009/06/30(火)(村田真)
名和晃平「L_B_S」
会期:2009/06/19~2009/09/23
メゾンエルメス8階フォーラム[東京都]
鹿の標本を水疱瘡のように透明の球体でびっしりと覆ったり、仏像やベビーカーなどの表面にカビが生えたようにポリウレタン樹脂を吹きつけたり。これらは彫刻の表面性やテクスチュアなどの問題に対するひとつの解だろうか。不思議だったのは、水槽に粘性の強い乳白色の液体を入れ、下からグリッド状にボコボコと泡立てる作品。これはなんだろうと思ってふと目をあげると、この空間を特徴づけるガラスブロックの窓(というより壁)が目に入った。作者がどこまで計算したかは知らないけれど、このグリッド状のボコボコ泡の液体と、量塊感のある半透明のガラスブロックが奇妙な共鳴を起こしているのだ。
2009/06/30(火)(村田真)
A-cup2009
茨城県波崎のグラウンド[新潟県]
今回で第8回を迎える建築関係者によるサッカー大会。日本でワールドカップが行なわれた2002年、阿部仁史、石田壽一、塚本由晴、磯達雄、馬場正尊の各氏を発起人とし、約100人の参加者が集い、初回のA-cupが開かれた。以降、この大会は次第に拡大し、今回は27チーム650人が参加する非常に大きな大会となった。建築とサッカーを愛するという大きなスローガンのもと、銚子にほど近い茨城県波崎に日本全国からチームが集合し、前日に前夜祭、当日は一日で決勝までを行なった。母体は大学の研究室であったり、設計事務所であったり、建築関係企業であったりとさまざまだ。日本サッカー協会のルールに準じるが、建築関係者の親睦を深めることが本来の目的であり、15分ハーフであること、交代は何度でも自由、ピッチ内に40代以上が必ず一人以上、30代か女性が必ず一人以上、女性か中学生以下が必ず一人以上いること、女性の得点は2点とするなど特別ルールが加えられている。女性に触れるとファウルとなるため、このルールを逆手に取って、去年からほぼ女性だけの「スパイクガールズ」というチームも現われるなど、多様性を増したチーム編成が可能となっている。
さて今年の戦い、結果からいうと、優勝は京都造形芸術大学などを母体とした「京都ケマリ倶楽部」、準優勝は大阪の複数の大学による「ソレッテ大阪?」である。関西勢が強かった。筆者のいる56FCは去年ベスト4まで残ったものの、今年は2回戦で敗退。去年の優勝チーム「レアル・間取り・どう?」や準優勝チーム「フノーゲルス」はベスト4にも現われないなど、浮く沈みが激しくドラマも多い。それにしても本気ともお遊びともつかないこのような建築関係イベントが継続していることは、とてもほほえましいことだと思う。誰にも経済的なメリットがあるわけでもなく、単に建築が好きだから、サッカーが好きだからという理由で、これだけの人数が集まり、交流をして全国に散っていく。建築も好きでないとやっていけない大変な仕事であり、その意味で好きであること、楽しむことの大事さを、それとなく感じさせるこの大会は、ある意味、建築家という職業の本質を示唆してもいるのだ。
2009/07/05(日)(松田達)