artscapeレビュー
2009年07月15日号のレビュー/プレビュー
『シャルロット・ペリアン自伝』
発行所:みすず書房
発行日:2009年6月10日
ル・コルビュジエのもとでしばらく働いたシャルロット・ペリアンのチャーミングな自伝である。ほぼ20世紀と重なる、一世紀に近い生涯は、彼女にモダニズムの現場の証言者としての役割を与える。大河ロマンのごとき、劇的な物語のなかに、著名な建築家や芸術家を散りばめ、素晴らしい脇役というべきもうひとつの視点から20世紀のデザイン史を追いかけられる。スタッフの立場から、ル・コルビュジエの仕事ぶりや緊張感あふれるアトリエの様子を記述していることも興味深い。また男ばかりの建築界において、女性のデザイナーがどのように活動していたかを知ることができ、ジェンダー論の視点からも読めるだろう。そしてペリアンが工芸の指導のために来日し、ブルーノ・タウトのごとく滞在していたことから、異国人の目から日本近代のデザインの状況が理解できる。彼女は、フランスでは創造のブレーキとなる過去のスタイルを背負いこまないために、日本では白紙の状態からフォルムを生みだせる可能性を指摘している。わかりやす過ぎるタウトの日本論とは違う。伝統的な建築における規格化と標準化という現代性を発見した。
詳細:http://www.msz.co.jp/book/detail/07444.html
2009/06/30(火)(五十嵐太郎)
馬場正尊『「新しい郊外」の家』
発行所:太田出版
発行日:2009年1月14日
著者は、房総半島の海岸の近くに土地を購入し、自邸と6棟の賃貸住宅を建設した。そしてその地を「新しい郊外」と呼ぶ。東京に通うためのベッドタウンではなく、積極的な自意識をもって住む郊外では、サーフィン、魚介類、農作物を楽しむ。著者は、概念を唱えるだけではなく、自ら実践し、その過程で起きるさまざまな苦労の記録を本書に記した。波瀾万丈の個人史とも重ね合わせているが、新しい不動産のあり方への提案としても興味深い。
詳細:http://www.ohtabooks.com/publish/2009/01/14155934.html
2009/06/30(火)(五十嵐太郎)
夢の中の洞窟
会期:2009/08/01~2010/01/17
東京都現代美術館[東京都]
東京都現代美術館の中庭部分に大西麻貴+百田有希のフォリーが展示される。MOT×Bloombergパブリック・スペース・プロジェクトにおけるもので、2009年8月1日から6ヶ月間展示されるという。二人のブログ(http://oaharchi.exblog.jp/)に現時点(執筆時)には一枚だけ画像がおかれている。床と天井がそれぞれ隆起して、数点で接しているような、まるで鍾乳洞のような空間。形態的には2008年末にダブルクロノス展の一貫で白金台に設置された《都市の中のけもの、屋根、山脈》の延長上にあるようにも見える。実は筆者は直前に大西さんらの事務所にうかがい、進行状況などを聞いた。極めて刺激的なプロジェクトで、オープンが楽しみだ。同時に併設ギャラリーで彼女/彼らの展覧会も開かれるという。
2009/06/30(火)(松田達)
アイ・ウェイウェイ展──何に因って?
会期:2009/07/25~2009/11/08
森美術館[東京都]
アイ・ウェイウェイが六本木にやってくる。ヘルツォーク&ド・ムーロンとの《鳥の巣》でのコラボレーションで彼の名前を知る人も多いだろう。現代中国のもっとも注目されるアーティストであり、1999年以降は建築系プロジェクトも数多く手がける。また作家であると同時にキュレーターとして「芸術文件倉庫」を主宰するなど、幅広い活動を行なう人物である。この展覧会は、新作6点を含む26点が展示される過去最大級の個展だという。関連企画としてアイ・ウェイウェイ自身と松原弘典氏によるレクチャーがあるほか、特に気になるのは、セッション「8時間日曜対談─アイ・ウェイウェイ×アート×建築」(2009年7月26日)であり、ウリ・シグ、隈研吾、杉本博司ら多彩なゲストと、なんと8時間にわたって対談するという。
2009/06/30(火)(松田達)
大地の芸術祭──越後妻有アートトリエンナーレ2009
会期:2009/07/26~2009/09/13
越後妻有地域(新潟県十日町市、津南町)760km2[新潟県]
越後妻有アートトリエンナーレは今年で4回目を迎える。新潟県の南端、越後妻有地区という広大なエリアで開催される芸術祭であり、地域がもつさまざまな価値をアートを媒介にして世界に発信して地域再生につなげる「越後妻有アートネックレス整備事業」の成果の発表の場でもある。里山のもとに広がる美しく多様なランドスケープの中で、美術家や建築関係者をはじめ多くの作家たちがそれぞれのテーマを見つけて作品を展示する。今回は新作約200点を含む約350点の作品が、200の集落をベースに展開される。また廃校を活かす、世代をつなぐ、世界の芸能を紹介する、食と農を演出するなど、多彩なテーマが芸術祭を彩る。広大である分、単に作品と鑑賞者というスタティックな関係ではいられないだろう。必然的にこの越後妻有という地域に入り込み、そこに住む人たちと出会いながら作品を見ることになるはずであり、ぜひ現地に赴きたい。
2009/06/30(火)(松田達)