artscapeレビュー
2010年11月15日号のレビュー/プレビュー
萩原朔実 写真展
会期:2010/10/15~2010/10/26
アートスペース煌翔[東京都]
萩原朔実の発想の秘密を解きあかす興味深い展示だった。展示作品は二部構成で、第一部は大学の研修で滞在したオーストラリアで撮影された「樹」のシリーズ。なぜか吸い寄せられるように撮り始めたということだが、樹肌が赤く露呈したり、山火事で黒焦げになったりした樹木たちは妙に生々しく肉感的だ。その動物的とでもいうべき生命力は、日本のおとなしい樹とはまったく異質なもので、萩原の、何か珍しいものが目の前にあらわれた時にぱっと飛びついていく鋭敏な生理感覚や反射神経がよくあらわれている。
もうひとつは「観覧車」のシリーズである。たまたまブリスベンの美術館に展示を見に行った時に、建造中の巨大観覧車に出会い、これまた反射的にシャッターを切ったのだという。「インスタレーションの作品」を思わせる移動式の観覧車は、オーストラリア各地にあらわれては消えていく。その「夢のような」たたずまいにすっかり魅せられてしまった萩原は、日本に帰国後も各地の観覧車を撮り続けている。おそらく天性のコレクターの資質を備えた彼のことだから、この次には世界中の観覧車を撮影する行脚が始まるのではないだろうか。
美学者の谷川渥がこのシリーズを見て「差異と反覆だね」と評したのだという。言い得て妙というべきだろう。萩原の作品には、いつでもこの微妙に異なったイメージがくり返されるという「差異と反覆」の魔術が組み込まれている。「観覧車」のシリーズは、最初は正面から円形のフォルムを強調して撮影していたのだが、最終的には真横から垂直に屹立するように撮る構図が選択された。それはこの角度から見た観覧車が、目眩を生じさせるような「差異と反覆」の効果を一番強く発揮できるからだろう。
2010/10/26(火)(飯沢耕太郎)
Digital Tea House展
会期:2010/10/21~2010/10/26
リビングデザインセンターOZONE(7F リビングデザインギャラリー)[東京都]
東京大学とコロンビア大学による合同ワークショップにおいて製作された茶室の展示。隈研吾研究室を中心とした東大の2チームは実物と模型を展示、コロンビア大のチームはパネルと模型展示。RhinocerosやGrasshopperといった最新ソフトウェアを用いたデザインにより、デジタルファブリケーションに挑戦したことが特徴的であった。コロンビア大のパネルでは、Grasshopperによるシナプスの結合図のようなプログラムに、さらに解説を加えた図面(?)が展示されていたのは印象的だった。形の生成過程を示す、新しいタイプの図面であるともいえる。同時に、初期条件と最終形態がダイレクトに結びつき、いつでもそれらを同時に変更可能であるというパラメトリック・デザインの真意も理解できるものである。一方、東大チームの2案も、基本的に同じようなソフトウェアと手法から生まれてはいるが、パラメトリック・デザインそのものよりも、最終的に全体の建築としての完成度を重視しているように思え、個人的にはその点に共感を覚えた。すべてではないが、どうしてこういう形になったのか? という問いへの答えとして、コロンビア大チームの根拠が「初期値」に見えたのに対し、東大チームはどちらも「空間的な要請」であったように感じられた。現時点でのパラメトリック・デザインの受容の日米の違いのようにも感じられて興味深い。なお「チーム洗濯板」は壁のうねりが美しく、かつ機能的な要請にも対応できる点における展開力もあると感じられ、「チーム換気扇」は天井から漏れる光をデザインに転化していた点が面白く、また自然光の下でも空間を体験してみたいと感じられた。
2010/10/26(火)(松田達)
トランスフォーメーション
会期:2010/10/29~2011/01/30
東京都現代美術館[東京都]
「変身-変容」をテーマに、人間とそうでないものとの境界を探る展覧会だそうだ。出品作家はマシュー・バーニー、フランチェスコ・クレメンテ、ヤン・ファーブル、イ・ブル、パトリシア・ピッチニーニ、アピチャッポン・ウィーラセタクン……と国際展並の顔ぶれ。出品作品も国際展並に映像が多いので、国際展並にのぞき見程度にトバシた。自身をモデルにした頭部にシカの角やウサギの耳をつけたヤン・ファーブルの彫刻群は圧巻。その手前の回廊に、ペットボトルや洗濯バサミなどの日用品を組み合わせてインスタレーションしたサラ・ジーの作品もぼくは好きなのだが、どこが「トランスフォーメーション」だって気がしないでもない。(つづく)
2010/10/28(木)(村田真)
オランダのアート&デザイン新言語
会期:2010/10/29~2011/01/30
東京都現代美術館[東京都]
「トランスフォーメーション」展の続きで、アトリウムのイ・ブルやバールティ・ケールらの彫刻を見て次の部屋に入ると、なんか変。そのまま進んでいくうちに、ようやく別の展覧会に突入していることがわかった。ちゃんと終わりと始まりの区切りをつけといてくれなくちゃ。てか、私の注意不足ですが。でもすぐに気づかなかったのは、オランダのアート&デザインにも「トランスフォーメーション」の要素が入っているからだし、逆になんか変だと感じたのは、展覧会としての緊張感が異なっていたからだ。オランダ展のまったりした素朴な展示に比べ、「トランスフォーメーション」がいかに空気がピンと張りつめていたか、会場を出て初めて気づいたのだった。
2010/10/28(木)(村田真)
空と宇宙展 飛べ!100年の夢
会期:2010/10/26~2011/02/06
国立科学博物館[東京都]
ぼくはてっきりレオナルド・ダ・ヴィンチあたりから始まって、ライト兄弟を経てスペースシャトルにいたるまで世界の航空宇宙史が見られると思って出かけたのだが、なんだ「日本の航空宇宙100年記念」じゃないか。小惑星探査機はやぶさも無事帰還したことだし、ついでに出しちゃえっていうか、むしろはやぶさの帰還に便乗して日本の航空宇宙史100年を振り返ってみましたってほうが正解みたいな。そのはやぶさのカプセル関係は別室でものものしく陳列され、そこだけ撮影禁止。もし撮影したらデータを消去させていただきます的な脅し文句が。そんなにタイソーなもんか?
2010/10/29(金)(村田真)