artscapeレビュー

2012年12月15日号のレビュー/プレビュー

「ラファエロ」展:記者発表会

会期:2012/11/30

イタリア大使館[東京都]

来年は「日本におけるイタリア」年。「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」「ミケランジェロ展」も計画されているというから、ルネサンス3大巨匠のそろい踏みだ。これは驚き。もちろん《モナ・リザ》も《ダヴィデ》も来ないけど、腐っても3大巨匠だからな。その先頭を切るのが来年3月2日から国立西洋美術館で始まる「ラファエロ展」だ。ラファエロというと日本では先輩のレオやミケほどの人気はない。美術史的には先輩ふたりに勝るとも劣らない影響力をもっているのに、なぜ人気がないんだろう。それはおそらく頑固一徹な先輩たちに比べて性格が温厚で、若いころから画家として成功し、順調にエリートコースを歩んだからではないか。日本人は波瀾万丈の破滅型の芸術家が好きだからなあ。それにイケメンで女にモテたってのも不人気の理由かもしれない。なにしろ37歳で早逝した死因がヤリすぎだって説もある。話を戻そう。ラファエロでもっとも有名な絵といえば、ヴァチカンにある《アテネの学堂》だが、これはフレスコ画なので来ない。来るのは《大公の聖母》をはじめ、《聖ゲオルギウスと竜》《無口な女(ラ・ムータ)》《友人のいる自画像》《ベルナルド・ドヴィーツィ(ビッビエーナ)枢機卿の肖像》など、小品を中心に素描も含めて約25点。ほかにペルジーノやジュリオ・ロマーノら周辺の画家の作品、ラファエロの原画に基づく版画やタペストリーなども出品されるというから、極東の島国としては望みうる最高の「ラファエロ展」になるだろう。

2012/11/30(金)(村田真)

山本聖子「円の手ざわりはつるつるかざらざらか」

会期:2012/11/24~2012/12/09

Gallery PARC[京都府]

山本聖子の個展。近年山本は、折り込みチラシにある不動産の「間取り図」の線を丁寧に切り取ってつくった無数のパーツを用いて、立体や平面に再構成する作品に取り組んできた。関西では6年ぶりの個展という今展では、この「間取り図」のシリーズに加え、今年の「六甲ミーツ・アート芸術散歩」や札幌の500m美術館で発表した、入れ子状に層をなす大型の構造物の作品シリーズ、新作の写真作品なども発表された。会場の構成は個々の作品が連関するインスタレーションになっていたのだが、円形とあんパン、三角形とハンガーなど、色や形のイメージも連鎖し、見ているとこちらのイマジネーションが刺激されていく。他者である世界のさまざまなものごとと自分自身との距離、関係に、軽やかな表現でアプローチする山本の感性にも感じ入る内容だった。


展示風景

2012/11/30(金)(酒井千穂)

久保昌由「鉛筆画展」

会期:2012/11/12~2012/12/01

GALLERY wks.[大阪府]

久保昌由は以前はペインティングの作品を発表していたが、近年より鉛筆画の作品に取り組んでいるのだそう。今回は3年ぶりの個展になった。会場には、タンポポの花が綿毛に変わるまでを描いた連作や、穏やかな水面に小舟の浮かぶ風景を描いたシリーズなど、32点の鉛筆画が展示されていた。繊細で精緻に描かれた作品はどれも美しく、じつに目を見張るようなのだが、ただその驚きは、テクニックに圧倒されるというようなものではなかった。久保の鉛筆画からは、霧のような気配に覆われた重たい空気の感触も受ける。心の深淵を描こうとしているような、静謐な世界が印象的な個展だった。

2012/12/01(土)(酒井千穂)

牡丹靖佳「片方もの、もしくは盗人のコレクション」

会期:2012/12/01~2012/12/22

アートコートギャラリー(クンスト・アルツト)[大阪府]

絵画作品約10点と、彫刻作品、今年出版された絵本「おうさまのおひっこし」の原画約30点が展示された牡丹靖佳の個展。展示作品は、“とある盗人のコレクション”で、ギャラリー空間はその盗人の“コレクションルーム”。さらに狂言「吃り」の一節に謡われる「片方物」(かたかたもの)を鍵にして、絵本と絵画、コレクションルームの3世界が繋がる、という物語設定がまず素敵で興奮した。画面に登場するモチーフやとりどりの色が関係しあい、新たなイメージやストーリーへと見る者を誘っていく魅力的な作品空間。

2012/12/01(土)(酒井千穂)

山野千里「ジャングル短編」

会期:2012/12/01~2012/12/22

アートコートギャラリー[大阪府]

牡丹靖佳展と同時開催の山野千里の個展。私もすっかり魅了されてしまったのだが、ユーモラスでユニークな場面設定とモチーフが見る者の想像を掻き立てる小さな陶芸作品にはファンが多いのも頷ける。好きな作品の前に立ち、顔を近づけて細やかな表現と、物語世界を隅々まで楽しみたくなる内容。

2012/12/01(土)(酒井千穂)

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