artscapeレビュー

2014年05月15日号のレビュー/プレビュー

福島県富岡町

[福島県]

日帰りで、いわきから6号線をたどりつつ、久之浜、広野、木戸、富岡を経由し、行けるところまで北上した。Jヴィレッジ周辺は本当に原発労働者の拠点だった。いつも仙台から南下し、南相馬の方に訪れるので、反対側から行くのは、3.11の二カ月後以来である(当時は久之浜まで常磐線が通っていた)。久之浜は宮城県や岩手県の被災地と同様、破壊された住宅地は更地となり、次へのステップに向かっていたが、途中からは、ほとんど人の気配がなくなる。動きもなく、音もない街。あの日から時間が止まったまま、宮城・岩手とは全然違う状況だ。建物自体はあまり壊れていないが、人がいないから、おそらく水のインフラも復旧していない。『思想地図』の「福島第一原発観光地化計画」のコース1と言うべき「富岡町へ行く」を道案内のガイドのようにしてまわってみたが、東京から日帰りで誰でも行くことができる。放射線の影響により、人が住まなくなったエリアの広大さを、一部だが体験し、忘却が進むなか、もっと多くの人が目にしてよい風景だと思った。

2014/04/29(火)(五十嵐太郎)

北井一夫「村へ」

会期:2014/04/25~2014/05/31

ツァイト・フォト・サロン[東京都]

欧米のアート・マーケットでは、ヴィンテージプリントの価格が高騰している。言うまでもなく、撮影されてすぐに印画紙に焼き付けられ、そのまま時を経て現存しているプリントのことだ。希少価値はもちろんだが、撮影当時の空気感を生々しく感じられるものが多く、写真作品のコレクターの間では人気が高い。日本の写真家たちの1960~70年代のヴィンテージプリントも、欧米のコレクターたちにとっては垂涎の的のようだ。ちょうど前回の橋本照嵩展に続いて、今回の北井一夫展も「全てヴィンテージプリント」の展示だったのが、ちょっと面白いと思った。僕自身はヴィンテージ絶対主義者ではないが、コレクターたちの心理も充分に理解できる。ややセピア色に褪色したりしているプリントの前に立つと、その中に強い力で引き込まれていくように感じるからだ。
もっとも、それが北井一夫の「村へ」の展示だったことも大きな要素ではあるだろう。彼が1970年代前半に『アサヒカメラ』に連載し、75年に第一回木村伊兵衛写真賞を受賞したこのシリーズは、いま見てもいぶし銀の輝きを発している。人物を突き放すように、やや距離を置いて画面の中心に置き、周囲を大きくとって村の環境を細やかに写し込んでいくスタイルは、当時多くの写真関係者を驚嘆させたものだ。一見無造作なようで、そこには北井の写真家としての周到な配慮があり、当時急速に解体しつつあった村落共同体のありようを、哀惜を込めて写しとっていくにはそのやり方しかなかったことが伝わってくる。その名作を35点のヴィンテージプリントで見ることは、他に代えがたい歓びを味わわせてくれる視覚的体験だった。

2014/05/01(木)(飯沢耕太郎)

詩集「檸檬のピーチ」出版記念イベント

会期:2014/05/03

京都五条モール内 8(おっと)[京都府]

詩人で、リーディンググループ「ななつきぐも」で朗読会などを行なう小鳩ケンタの自費出版レーベル「コバトレーベル」から初めてリリースされたのは、詩集『檸檬のピーチ』。その出版イベントとして、小鳩、その本の編集担当のうめのたかし(homehome)、挿絵を寄せているasaruの3人によるトークショーなどが行なわれた。
僕は、イベントには参加できず、asaruの原画展示を拝見しただけなのだが、彼女(asaruさんは女性)の絵はイラストレーションとしても美しいのだけど、シンプルな模様や線だけという作品も多い。なにが描かれているのか観察してみると、一瞬一瞬の動きを丁寧に切り取って記録するような、身体やその記号の記録が描かれていることがわかる。人物のモーションを一場面ごとに標本としているよう。そこに力強い線とかたちが、まるでマンガに描かれる方向を示すような補助線としても自然と機能しているようにも見える。
会場はお茶屋を改装した場所の一室。ドローイングをところ狭しと壁一杯にたくさんランダムに貼られた空間は一日だけというのがとても残念。ちなみに、詩集は意表をついてくる言葉の淡々としたリズムが心地いい。ブックデザインは大阪のSKKYによるもの。






展示風景

2014/05/03(土)(松永大地)

羽鳥玲個展「Blue Beard」

会期:2014/04/30~2014/05/11

black bird white bird[京都府]

シンプルでどっしりとしたタッチで、「唇」とか「銃」とか「靴」とか、ずばりそのものだけを描く単純なドローイング。展示している作品数も多いわけではない。言ってしまえば、情報量はとても少ないのだけど、それがなんとも魅力的。水彩の黒一色なのがいいのかも。見る側は見る側で、各自でその対象に迫って想像して見ているということなのだと思う。

2014/05/03(土)(松永大地)

プレビュー:新incubation6 堀尾貞治×冬木遼太郎「Making Sense Out of Nonsense」

会期:2014/05/17~2014/06/29

京都芸術センター[京都府]

冬木遼太郎という作家が作品としてつくりあげていくアイデアやモチベーションといったもののとらえづらさ、つかみづらさはなんなのかと、2013年のARTZONE(京都)での個展を見たときに思っていた。が、今回の二人展、堀尾貞治という意外すぎる組み合わせを見ただけで、いくつか腑に落ちる部分がある。個人的にこのうえなく楽しみな取り合わせ。チラシにある「互いに触発しあう」ような展示方法を強く望みます。

2014/05/15(木)(松永大地)

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