artscapeレビュー

勝正光が作品を携えて、別府から神戸に船でやって来た。──神戸での制作と展示とまち歩き

2012年06月15日号

会期:2012/05/10~2012/05/15

ギャラリー301[兵庫県]

神戸大学大学院生の橋本みなみの企画で開催された別府在住の勝正光の個展。私ははじめて知ったのだが、勝は鉛筆画を描いている作家で、今展はそのサブタイトルのとおり、事前に実施された神戸での「まち歩き」も彼の制作の在り方や魅力を知るための鍵になっていた。会場には、勝がそれまでに描きためてきた鉛筆画やスケッチ、今回、神戸での滞在で制作された作品などがたくさん展示されていたのだが、ひとつずつ見ていくうちにその観察力の高さと感受性の豊かさに引き込まれていく。神戸で出会った人々や、その記憶をモチーフにした作品、実際に作家が目にしたものなど、展示作品はどれも、日常の物事をこんなにもきめ細やかに見ていたら疲弊してしまうのではないかと思うほど力強く、入念な筆致だった。なかでもそのような彼の制作態度を如実に示していたのが白い紙を隅々までひたすら鉛筆で塗りつぶした(だけの)大きな作品。一面に表われた独特の光沢の迫力もすごい。モチーフも道具もシンプルだが、清々しさを覚えるものだった。


展示風景

2012/05/15(火)(酒井千穂)

2012年06月15日号の
artscapeレビュー