artscapeレビュー

笹岡啓子「久万山真景」

2012年06月15日号

会期:2012/05/08~2012/05/20

photographers' gallery/ KULA PHOTO GALLERY[東京都]

久万高原町は愛媛県中南部に位置し、平均標高800メートルという山間の町だ。笹岡啓子は町立久万美術館で2009年に開催された萱原里砂、高橋あいとの3人展「歸去來兮(かへりなんいざ)」のため、2008年にこの町の風景を撮影した。そのときの作品を再構成して展示したのが、今回photographers’ galleryとKULA PHOTO GALLERYで開催された個展「久万山真景」である。
笹岡の6×6判のフォーマットの写真は、例によって痒い所に手が届くように、細やかに山や河や岩の多い久万の眺めを写しとっている。自然だけではなく、農地や山を切り崩す工事現場などにもカメラを向ける。タイトルの「真景」というのは、江戸時代末期に旅の絵師、遠藤広実が描いた全3巻の絵巻物「久万山真景絵巻」を踏まえているようだ。やはり久万美術館に収蔵されているこの絵もまた、久万の風景を丁寧に、その細部にまで目を凝らして描き出したものだ。笹岡はこの絵巻物の描法を意識しつつ、写真特有の公平で滑らかな視線を活かし切って作品化した。ただ、展示作品はすべて2008年、つまり4年前に撮影されたものだけなので、この仕事が完成したものなのか、それとも続きがあるのかがよくわからない。もう少し長いスパンで撮影していくことで、さらに厚みのあるシリーズに成長していくのではないかと思う。

2012/05/19(土)(飯沢耕太郎)

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