artscapeレビュー
土田ヒロミ「BERLIN」
2012年06月15日号
会期:2012/05/09~2012/05/22
銀座ニコンサロン[東京都]
土田ヒロミは昨年11月に写真集『BERLIN』(平凡社)を刊行した。1983年、まだ“壁”の崩壊前に撮影したモノクロームのベルリンの写真に、1999~2000年に撮影し、写真集『THE BERLIN WALL』(メディアファクトリー、2001)にまとめたカラー写真群、さらに2009年にカラーとモノクロームで新たに撮影し直した写真群を加えた、三層構造の写真集だ。「見える壁と見えない壁の間に流れゆく時間」を、定点観測の手法を駆使して捉え切った力作である。その『BERLIN』の写真群が、「ニコンサロン特別展」として展示された(6月28日~7月11日に大阪ニコンサロンに巡回)。あらためてこのシリーズの意味と厚みを問い直すのに、ふさわしい機会になったと思う。
写真集を見たときにも感じたのだが、このシリーズでは、いつもの土田の明快な二分法的なコンセプトが影を潜めている。1983年、1999~2000年、2009年という、ベルリンを撮影した3つの時間、モノクロームとカラー、やや引き気味の建築写真と街頭の人々にカメラを向けたスナップショット──これらの異質な要素を、あえてシャッフルして無秩序に投げ出しているように見えるのだ。そのかなり混乱した印象を与える展示のレイアウトは、土田の現時点での世界観、歴史観をストレートに反映しているのではないだろうか。むろん、このシリーズは完結したわけではなく、これから先も続いていくはずだ。土田の『BERLIN』が、今後どんなふうに生成・変質していくのか、よくわからないだけに逆に楽しみだ。
2012/05/09(水)(飯沢耕太郎)