artscapeレビュー
2012年06月15日号のレビュー/プレビュー
日台新鋭建築家交流展 自然系建築展
会期:2012/04/14~2012/08/26
府都 KIANTIOK[台湾 台南市]
ドイツから台南に移動し、府都という建設会社のギャラリーの「日台新鋭建築家交流展 自然系建築」展へ(会期は8/26まで)。謝宗哲がキュレーションを行ない、筆者はアドバイザー的に関わったものである。日本からは藤本壮介、平田晃久、大西麻貴、台湾からは劉國滄(あいちトリエンナーレ2013に参加)、曾瑋、莊志遠が参加した。藤本、平田、大西の三名は1/1で空間を体感できる大型のインスタレーションを制作し、とくに二重螺旋の家は、空間を一部再現する大がかりなものである。劉は自作の軌跡、曾は身体性の強い作品を紹介していた。また莊は大学修士を卒業したばかりの最若手で、日本の影響を強く受けている。全体としてギャラリー間の2回分くらいの規模と密度はあるだろう。5月19日は、大西麻貴のレクチャーと、台湾のリトルピールアーキテクツのメンバーも参加して建築家創作交流(Pecha Kucha Party)が行なわれた。これで台湾でも大西人気に火がついたのではないか。
写真:左上=藤本壮介、右上=平田晃久、左下=大西麻貴、右下=台湾
2011/05/19(土)(五十嵐太郎)
大エルミタージュ美術館展──世紀の顔・西欧絵画の400年
会期:2012/04/25~2012/07/16
国立新美術館[東京都]
エルミタージュ美術館の300万点を超えるコレクションから89点の絵画を選び、16世紀のルネサンスから20世紀アヴァンギャルドまで1世紀ごとに5章に分けて紹介。第1章はいきなりティツィアーノ晩年の《祝福するキリスト》で始まるが、あとはレオナルド派によるモナリザのヌード像や、当時としては珍しい女性画家ソフォニスバ・アングィソーラによる女性像が目を惹く程度。そういえばエルミタージュ美術館展て毎年のように開かれているから、今回も在庫一掃セール的な極東巡業かと思って第2章に足を踏み入れたら、そんなことなかった。父娘愛を隠れ蓑に近親相姦的ポルノを描いた《ローマの慈愛(キモンとペロ)》と、田園風景に理想世界を封じ込めたかのような《虹のある風景》の2点のルーベンスは見ごたえがあるし、レンブラントやヴァン・ダイクの卓越した肖像画もバロック的な重厚感にあふれた傑作。いやそんな知られた巨匠だけでなく、たとえばマティアス・ストーマーとヘリット・ファン・ホントホルストによるロウソクの火を光源にした2点の宗教画や、ホーホストラーテンのだまし絵的な自画像も見逃してはならない。むしろこれぞバロックといいたい。第3章では、小品ながらシャルダンの《洗濯する女》、闇を照らし出す光の表現が巧みなライト・オブ・ダービーの《外から見た鍛冶屋の光景》、牢獄から宮廷画家に成り上がったというリチャード・ブロンプトンの《エカテリーナ2世の肖像》、西洋美術館の出品作品よりずっとよかったユベール・ロベールの《古代ローマの公衆浴場跡》などが目を惹く。注目したいのは、ヴィジェ・ルブランとアンゲリカ・カウフマンというふたりの女性画家の自画像で、どちらも40代の自画像なのに20歳くらいにしか見えない。女性画家の特権か。第4、5章の近代絵画になると有名画家が目白押しになる分、特筆すべき作品は相対的に少なくなる。いやもう18世紀までで十分ともいえるが、唯一の例外がマティスの《赤い部屋》だ。サイズも意外なほど大きくて、他を圧倒する存在感を放っていた。
2012/05/02(水)(村田真)
日本設計+東急設計コンサルタント《渋谷ヒカリエ》
[東京都]
竣工:2012年3月
渋谷ヒカエリエへ。全体を統一したヴォリュームにおさめるのではなく、異なるプログラムのヴォリュームを縦にそのまま積んだような表現は、OMAやmvrdvなど、オランダ系の現代建築の前衛がすでにやっていたことである。しかし、駅前の商業施設も、こうしたデザインをやるようになった時代を迎えた。おそらく、美術館やオペラのできる劇場などをもつ、愛知の芸術文化センターもいまだったら、こういう建築になっていただろう。
2012/05/02(水)(五十嵐太郎)
NAP建築設計事務所+竹中工務店《東急プラザ表参道原宿》
[東京都]
表参道のGAP跡地に完成した、中村拓志設計による東急プラザ表参道原宿を訪れた。凹凸のスカイラインをもつ印象的な外観で、オープン前から目立っていた物件である。全体が鏡面張りになった印象的な導入部は、外部の都市風景が映り込み、内部に入ると、今度は垂直に吹抜けが展開し、空へとつながる。また空中庭園というべき、屋上の緑にあふれるオープンテラスは気持ちいい場所だ。東京にはないヨーロッパ的な広場の感覚をもつ。
2012/05/02(水)(五十嵐太郎)
公募団体ベストセレクション 美術 2012
会期:2012/05/04~2012/05/27
東京都美術館[東京都]
都美館の「リニューアルオープンを機に、『公募展発祥の地』としての歴史の継承と発展を図るため」企画された公募団体展の選抜展。これのいささか奇妙な点は、団体展の団体展であること、そして都美館が主催者であることだ。団体展は都美館にとって最大のお得意さまだが、かつてのような影響力を失ったここ20~30年はたんなる金ヅルというか、もっといってしまえば必要悪になってしまったと思っていた。なのに今回どういうわけか都美館が「指導力」を発揮し、井のなかで派閥闘争を繰り広げてきた美術団体をまとめるパトロン的立場に立ったことに、ある種の違和感を覚えたのだ。都美館が原点に立ち返ったともいえるが、これを時代に逆行した現象と感じるのはぼくだけだろうか。いや、ひょっとしたら時代に逆行しているのは自分だけかもしれない、とも思ってしまった。でも展覧会を一巡してみて、つい足を止めて見入ってしまうような作品にはお目にかからず、少し安心したのも事実。安心させないでくれよおお。
2012/05/03(木)(村田真)