artscapeレビュー
大西みつぐ「近所論 臨に曝す」
2012年06月15日号
会期:2012/05/08~2012/05/20
「近所論」(2009)、「続近所論」(2010)、「臨海 風景の被爆」(2011)など、近作を中心にした展示。ピンホール・タイプのポラロイド・フィルムや青色に発色するブルネオジアゾ感光紙を使用し、セルフポートレートを試みたり、身体の一部を画面の中に取り入れたりするなど、一見すると遊戯的、実験的な作品群に見える。だが、会場に掲げられた大西の次のコメントを読むと、彼の本気度が伝わってくる。
「この地は、すでに次の闘いを強いられている。/あるいはとっくにそれは始まっている。/身体をじっくりここに曝すこと、/生きていく上での覚悟、、、、、/東京湾最深部、臨海。」
この切迫した語調は、明らかに「3・11以後の近隣環境のささいな変貌」に対応しているのだろう。これまでの大西の作品のような、被写体を柔らかに包み込むような余裕はかなぐり捨てられ、生真面目な「生きていく上での覚悟」を問う姿勢が前面に出てきている。ピーカンの強烈な光に照らし出された湾岸の街の光景を、鮮烈なモノクローム・プリントに定着した「臨海 風景の被爆」のシリーズなど、自分が「ここにいる」という存在の痕跡を刻みつけておかなければならないという強い意志と緊張感を感じる。この継ぎはぎだらけの展示から、揺るぎない何かがかたちをとってくるのだろうか。
2012/05/19(土)(飯沢耕太郎)