artscapeレビュー

芸術家の肖像~写真で見る19世紀、20世紀フランスの芸術家たち

2012年06月15日号

会期:2012/04/14~2012/06/24

三鷹市美術ギャラリー[東京都]

どちらかといえば渋い、地味な印象の展覧会だが、写真や美術に関心のある鑑賞者にとっては、とても興味をそそられる展示なのではないだろうか。出品されているのはフランスのコレクターが長年にわたって蒐集したという、画家、彫刻家を中心にしたアーティストたちの肖像写真群である。アングル、ドラクロアから、マネ、セザンヌ、ルノワール、ロダンなどの巨匠のポートレートがずらりと並び、マティスやブランクーシの写真に至る。詩人のシャルル・ボードレールや女優のサラ・ベルナールの肖像も含めて、19世紀~20世紀のフランスの錚々たる文化人たちが、こんな顔をしていたのだということがリアルに見えてくること自体が、なかなかの見物といえるだろう。
それに加えて、写真におけるポートレートというジャンルができあがってくるプロセスが、くっきりと浮かび上がってくるのが興味深い。いかにも型にはまったウジェーヌ・ディスデリの1850年代の名刺判写真(カルト・ド・ヴィジット)から、ナダールやエティアンヌ・カルジャの堂々たる古典的な構図の肖像を経て、ドルナックやエドモン・ベナールのアトリエの環境とモデルとの関係のあり方を緻密に測定・定着した作品まで、19世紀フランスの肖像写真の歴史は、写真という表現媒体の受容と発展の経緯を示す見事なサンプルでもある。それにしても、ここに写っているアーティストたちの姿かたちは妙に生々しい。画家や彫刻家たちの生身の身体から発するオーラが、写真家たちによって捕獲され、これらの写真のなかに封じ込められているようにも見えてくる。最近の「芸術家の肖像」では、なかなかこうはいかないのではないだろうか。

2012/05/09(水)(飯沢耕太郎)

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