artscapeレビュー

金村修「Ansel Adams Stardust (You are not alone)」

2014年06月15日号

会期:2014/04/23~2014/05/06

銀座ニコンサロン[東京都]

金村修は、いつ頃から変化することを意識的に拒否するようになったのだろうか。1990年代前半にデビューしてすぐに、彼は雑然とした都市の環境を、6×7判カメラに詰めたモノクロームフィルムでフォルマリスティックに切り取り、やや大きめにプリントして壁面にモザイク状に貼り付けていく展示の方法をとるようになる(ロックの曲名まがいのタイトルの付け方もその頃からだ)。つまり、もう既に20年以上も、ミュージシャンが同じヒット曲をずっと歌い続けるように、同工異曲の展示を見せ続けてきたのだ。
それがどんな理由によるものなのかはよくわからない。おそらくある種の頑固なこだわりというよりは、変化することに対して神経質な怖れを抱いているのではないかと想像できる。いずれにせよ、彼は同じ曲を歌い続けることを自らの意思で選択した。そしてそのことについて、常に釈明しなければならないという強迫観念にとらわれているように見える。この所の彼の展示が、いつでも大量の言葉の群れによって覆い尽くされているのは、そのためではないだろうか。
今回の「Ansel Adams Stardust (You are not alone)」展でも、会場内の柱の四面に、文章をびっしりとプリントした印画紙が貼付けられていた。断言してもよいが、彼の言葉は何らかのメッセージを伝えることを目的にしているわけではない。丁寧にその意味を読み解いていこうとしても、はぐらかしとこけ威しの迷路の中で堂々巡りするだけだ。要するに、これらの饒舌な言葉の群れは、金村が自分の写真行為を正当化するために吐き散らしたものだ。3枚の写真ですむ所に3000枚の写真を費やすように、3行ですむ言葉を3000行に増殖させるシステムを金村は発明した。このシステムにのっとって写真を撮影し、言葉を綴れば、いくらでも無制限に垂れ流すことができる。自分で作った砦に立て籠り続けても別にいい。だがもう一度、吹きっさらしの荒野で、抜き身の戦いを挑む気概はないのだろうか。

2013/05/03(土)(飯沢耕太郎)

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