artscapeレビュー
作間敏宏「治癒」
2014年06月15日号
会期:2014/05/19~2014/05/31
巷房2+巷房階段下[東京都]
作間敏宏は、電球をさまざまな構築物に配置、増殖させていくインスタレーション作品で知られる現代美術作家である。一方で、1996年に生後すぐから約40年間の自分の顔写真を合成した「self-portrait」を発表したのをきっかけに、写真・映像を積極的に作品に取り込んできた。今回の巷房2+巷房階段下での展示でも、木造の家の形の構造体に無数の電球を配した作品に加えて、壁に映像作品を投影していた。
その画像は、インターネットから任意に抽出された100枚の日本の家の写真を重ね合わせることによって作られる。ぼんやりと輪郭が定まらない二階家が、ふわふわと宙を漂うように浮かびあがってくるのだが、そのたたずまいが何とも心騒がせる奇妙な魅力を発していた。どこにもないはずなのに、どこかで見たことがあるように感じてしまう「不在の実在」とでもいうべきリアリティが、インターネット画像の機械的な抽出によってなぜ生じてくるのか。おそらく、そこにわれわれの記憶の中に蓄積された「家」の視覚像に、極めて近いイメージが立ち上がってくるからなのだろう。19世紀以来、人類学の領域では、同じ人種や社会集団に属する人の顔を重ね合わせて平均的な容貌を探り出す合成写真が作成されてきたが、ここでも日本の「家」の原型(アーキタイプ)があらわれてくるように思える。
もう一つ、その画像の不思議な浮遊感について作間と話していて、二人とも同じイメージを思い浮かべていたことがわかった。実は作間は僕と同郷の宮城県の生まれである。東日本大震災直後に、二人とも津波で流出して海や川に漂う「家」を目にしていた。堅固に地上に打ち建てられていたはずの「家」が、水の上にはかなげに浮かんでいる。その記憶が今回の作品に結びついた。壁に投影された画像には仕掛けが凝らされていて、彼がよく作品に使う電球の光のような白い複数の球体が、ぼんやりとあらわれては上方に消えていく。そこにはおそらく、震災の犠牲者に対する鎮魂の意思が込められているのではないかと感じた。
2014/05/23(金)(飯沢耕太郎)