artscapeレビュー

富谷昌子「津軽」

2014年06月15日号

会期:2014/05/02~2014/05/25

POST[東京都]

富谷昌子は大阪芸術大学で須田一政に師事していた2000年代初頭から、故郷の青森県津軽地方を撮り始めた。ツァイト・フォト・サロン(東京)で2010年に「みちくさ」、2012年に「キョウハ ヒモ ヨシ」と、2回の個展を開催している。今回のPOSTでの個展は、初の作品集『津軽』(HAKKODA)の刊行にあわせたもので、これまでに展示された作品と新作をあわせて17点が展示されていた。
作品を見て強く感じたのは、富谷が決して派手ではないが着実に自分の作品を熟成させ、とても魅力的な写真の世界を提示できるようになっていることだった。ツァイト・フォト・サロンでの最初の展覧会に出品された作品もかなり多く含まれているのだが、プリントのクォリティひとつとっても、以前とは比較にならないくらいに深みのある、高度なものになってきている。風土性に安易に寄りかかることなく、「津軽という土地にある“独特の静けさ”」にしっかりと向き合った写真群は、はっとするような鮮やかさで目に飛び込んできた。この数年間で、彼女の写真の表現力が格段に上がっていることがよくわかった。
本展と写真集の刊行により、大学時代以来の積み上げにひとつの区切りがついたことは間違いないだろう。「津軽」は富谷にとってまださまざまな可能性を持つテーマだとは思うが、そろそろ次のステージに進んでもいい頃ではないかと思う。これまでの写真の撮り方、見せ方にあまりこだわらずに、むしろ新たな領域に大胆に踏み込んでいってほしいものだ。

2014/05/14(水)(飯沢耕太郎)

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