artscapeレビュー

収容病棟

2014年06月15日号

ワン・ビン監督のドキュメンタリー映画『収容病棟』を見る。中国の精神病院の「日常」を撮影したものだが、この題材で許可をとれたことに感心する。そして被写体との絶妙な距離感も興味深い。前編・後編あわせて4時間という長尺だが、この長さだからこそ、閉ざされた空間で、日々繰り返される生活への没入と想像に導く。『収容病棟』の建物では、相部屋以外だと、ほとんどの時間をテレビのある談話室か、中庭を囲む、格子のある回廊を歩くしかない。3階が男性、2階が女性、1階は食事(ただし、みな立ち食いしていた)。食事、排泄、睡眠という基本行為だけを満たす、機能主義/モダニズムを突き詰めたシンプルな空間である。しかしながら、『収容病棟』の建物では、制限された区域内の自由が保証され、会話、ケンカ、いたわりあい、恋愛さえ(3階と2階のあいだで)起きている。フィクションで描かれる精神病院のイメージとは違い、人間としての生活があり、人生の装飾を剥いで、シンプルにした分、塀の外の社会の生涯をより濃縮したようにも見える。

2014/05/07(水)(五十嵐太郎)

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