artscapeレビュー
横浪修「1000 Children」
2014年06月15日号
会期:2014/04/25~2014/05/30
EMON PHOTO GALLERY[東京都]
広告やファッション写真の世界でいい仕事をしている横浪修だが、2007年に写真集『なんのけない』(新風社)を刊行して以来、独特の角度から現実世界を見つめ直すプライヴェート作品にも力を入れている。今回、EMON PHOTO GALLERYで発表された「1000 Children」は、京都の三十三間堂の千体仏に衝撃を受けて発想されたものだという。
「幼児期の自我が芽生える頃のこども」をモデルとし、同じ白シャツに黒い吊りスカート(ズボン)を着用させ、頭部と肩の間にリンゴ、マンゴー、アケビ、オレンジなどの果物や野菜を挟み込んで、白バック、間接光で撮影する。4年間で実際に1000人のこどもたちを撮影したというから、大変な労作といえるだろう。いろいろな大きさにプリントされ、手際よく壁面に配置された写真群を眺めていると、この種の写真に特徴的な差異性と共通性の戯れに強く引き込まれていくのを感じる。
ただ、壁面にはたしかに1000人のこどもたちの写真が並んでいるのだが、それだけの数があるように見えないのはどうしてだろうか。三十三間堂の千体仏を間近に見る時に感じる、あの禍々しさ、不気味さ、イメージがとめどなく増殖していくような魔術的な雰囲気が、横浪の端正な作品からはきれいに抜け落ちているのだ。むろん彼がめざしたのは、千体仏の単純な再現ではないだろう。だが、どこか方向性を間違えているのではないかという疑いを、どうしても拭い去ることができなかった。
2014/05/14(水)(飯沢耕太郎)