artscapeレビュー

深川の人形作家 石塚公昭の世界

2016年06月15日号

会期:2016/04/23~2016/05/08

深川江戸資料館レクホール[東京都]

石塚公昭の仕事に注目しはじめたのは最近だが、人形作家としてのキャリアは1980年代からだから、かなり長い。ジャズやブルースのミュージシャンからスタートして、近年は小説家を中心に細部まで作り込んだ人形を制作し続けている。今回、東京・清澄白河の深川江戸東京資料館で展示された、泉鏡花、稲垣足穂、江戸川乱歩、澁澤龍彦、谷崎潤一郎、寺山修司、中井英夫、夢野久作、さらにエドガー・アラン・ポーやジャン・コクトーといった顔ぶれを見ても、彼の好みがどちらかといえば耽美・幻想系の小説家に偏っているのがわかる。
さらに、それぞれの小説家の作品を読み込み、人形を使ってその作品世界を再構築するために、石塚は写真を積極的に用いている。例えば江戸川乱歩なら、怪人二十面相ばりに気球に乗り込もうとしているとか、三島由紀夫なら燃え盛る金閣寺の前に立ち尽くすとか、稲垣足穂なら人力飛行機に乗り込むとか、作品中のある場面を設定してセットを組んだり、実際の風景のなかにはめ込んだりして撮影しているのだ。その凝りに凝った場面設定はどんどんエスカレートしており、日本の写真家には珍しい洗練された「コンストラクティッド・フォトグラフィ」として成立しているのではないかと思う。近年は、江戸川乱歩や谷崎潤一郎をフィーチャーした作品を、1920年代に流行したオイル・プリントの技法で制作するという実験も試みている。人形作家だけではなく、写真家としての石塚公昭にも注目していきたい。彼の仕事にはまだ、さまざまな可能性が秘められている気がする。

2016/05/06(金)(飯沢耕太郎)

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