artscapeレビュー

試写『幸福は日々の中に。』

2016年06月15日号

[東京都]

鹿児島市内にある知的障がい者施設、しょうぶ学園の日常を描いたドキュメンタリー映画。ここの入所者は基本的になにをしてもいい。好きな絵を描いたり、手仕事をしたり、歌ったり踊ったり。ときおり登場するたけしくんは、いつも中庭にしゃがみ込んでなにかを見ているだけ。カメラを向けても気にしないし、ごはんは? と聞かれても「いらない」。ある意味で外界から遮断された楽園ともいえるのだが、ここが楽園であるのはもうひとつ、彼らがネットにつながってないからでもあるだろう。かつて施設は物理的に外界から遮断されていただけなのに、いまでは情報的にも外界と隔てられている。そしてもし彼らが外に出ても、ネットにつながる可能性は少ない。もちろんネットにつながらないから楽園の住人でいられるのだ。そう考えるとネットというのは人間を容赦なく分断し、楽園から追放し、ダメにするものだと思う。それはともかく、彼らが外界とつながるひとつの機会が、障がい者と従業員のパーカッショングループ「otto & orabu」の公演。名称どおり「音」と「おらぶ(叫ぶ)」のコーラスで即興音楽を楽しむバンドだが、これがすばらしい。

2016/05/27(金)(村田真)

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