artscapeレビュー

石山貴美子展──わたしが出会った素敵な作家たち

2016年06月15日号

会期:2016/05/09~2016/05/14

巷房(3階、地下、階段下)[東京都]

『面白半分』(1972~80)は、僕の世代にとってはとても懐かしい雑誌だ。作家や詩人が半年交代で編集長を務め、それぞれの特徴を打ち出した洒脱な編集ぶりで人気を集めた。初代編集長は吉行淳之介で、以下野坂昭如、開高健、五木寛之、藤本義一、金子光晴、井上ひさし、遠藤周作、田辺聖子、筒井康隆と続く。これらの顔ぶれは、若い世代にはぴんと来ないかもしれないが、高度経済成長下に花開きつつあった「70年代文化」のエッセンスそのものといってよい。石山貴美子は、その『面白半分』でインタビューや対談記事の写真撮影を担当していた。本展では、その時代に撮影したポートレートを、ヴィンテージ・プリント6点を含めて65点ほど展示している。
文学者たちの普段着の気取らない表情を、いきいきと捉えることができたのは、石山があくまでも傍観者としての位置からシャッターを切っているためだろう。黒子に徹することで、むしろ彼らの無防備な、壊れやすい内面が写り込んできているように見える。今回の写真展のDMには吉行、野坂、開高、五木、金子、井上といった『面白半分』の歴代編集長に加えて、羽仁五郎、草野心平、田中小実昌、寺山修司、大島渚、唐十郎のポートレートが使われている。皆若々しい風貌だが、その12人のうち、五木と唐を除いて10人が故人になっていることに気づくと、感慨深いものがある。「70年代」が、すでにはるか彼方になりつつあるということだが、逆にこれらの写真を見ていると、彼らの記憶が生々しくよみがえってくるように感じる。写真に力があるので、いいエッセイをつけて、ぜひ一冊の本にまとめてほしいものだ。

2016/05/12(木)(飯沢耕太郎)

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