artscapeレビュー

武田陽介「Arise」

2016年06月15日号

会期:2016/05/14~2016/06/11

タカ・イシイギャラリー東京[東京都]

武田陽介が2014年に開催した個展「Stay Gold」と同名の写真集は、確信を持って撮影された決定性の強い写真と、非決定的な揺らぎを含みこんだ写真とを対比的に共存させ、写真というメディウムを通して見えてくる世界像を再構築しようとする意欲的な試みだった。武田は1982年生まれで、同世代の写真家たちの旗手として、次の展開を期待していたのだが、タカ・イシイギャラリー東京の新作展を見て、ややはぐらかされたような思いを味わった。「悪くはない」のだが、表現意欲が停滞しているように感じられたからだ。
今回の展示作品は、3点の大判プリントを含めて8点。ほかにモニターで映像作品を上映している。前回の個展との大きな違いは、全作品が「Digital Flare」のシリーズに統一されていることである。「デジタルカメラを強い逆光に向けた際に生じるフレア、あるいはゴーストと呼ばれる現象を被写体として捉える」このシリーズでは、武田は植物にカメラを向けながら、それを媒介として生じてくる光の揺らぎを「レンズのテクスチュア」として定着する。その意図は明確であり、プリント自体も官能的な美しさに満ちあふれている。だが、このシリーズだけに世界の見え方を特化させることで、前作の多次元的な構造が解体し、どこか予定調和な枠組みのなかに収まってしまっているのではないかと思う。写真家としての申し分のない才能に恵まれ、表現力と技術とを兼ね備えた武田には、さらなる未知の世界の探求を期待したいものだ。

© Yosuke Takeda / Courtesy of Taka Ishii Gallery, Tokyo

2016/05/27(金)(飯沢耕太郎)

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