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メディチ家の至宝 ルネサンスのジュエリーと名画

2016年06月15日号

会期:2016/04/22~2016/07/05

東京都庭園美術館[東京都]

15、16世紀のフィレンツェに君臨した、というより、イタリア・ルネサンス文化を牽引したメディチ家の宝飾品と肖像画の展示。一口にメディチ家といっても、歴史的に重要なのは15世紀のコジモ、ピエロ、ロレンツォの「黄金時代」だが、今回は衰退していく16世紀以降の君主たちに焦点を合わせている。衰退は展示を見れば一目瞭然で、プライベートな肖像画や細々としたジュエリーは、15世紀のメディチ家がパトロネージした建築やフレスコ画などの公共芸術に比べれば、個人的なフェティシズムの対象にすぎないからだ。人間が小さくなったというか、趣味に閉じこもるようになったというか。でもだからといってつまらなくなったわけではない。むしろ果物は腐りかけがうまいように、芸術も往々にして衰退期に魅力的な作品が現れるもの。例えば17歳で亡くなった《マリア・ディ・コジモ1世・デ・メディチの肖像》(ブロンズィーノ作)に見られる妖しさは、凡庸な《ロレンツォ・イル・マニフィコの肖像》の比ではない。一筋縄ではいかないマニエリスムの典型だ。ジュエリーでも、あえて歪んだ真珠を人体の一部に見立ててペンダントに利用するなど、「バロック」の語源に思わず納得してしまう例に出会える。とはいってもやっぱり作品は小粒。会場がアールデコ様式の邸宅を改造した庭園美術館以外だったら、ショボイ展覧会になっていたかもしれない。

2016/05/13(金)(村田真)

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