artscapeレビュー

W.H.フォックス・タルボット写真展 「自然の鉛筆」

2016年06月15日号

会期:2016/04/18~2016/06/05

写大ギャラリー[東京都]

東京工芸大学中野キャンパスの写大ギャラリーでは、1977年9月にW.H.フォックス・タルボットの没後100年を記念して、「近代写真術の発明家FoxTalbot 自然の鉛筆」展を開催した。そこでは、彼が発明したカロタイプの技法を使った24枚のプリントを貼付した、「世界最初の写真集」である『自然の鉛筆』(The Pencil of Nature, 1844~46)の収録作品をはじめとして、42点のタルボットの作品が展示された。プリントはフォックス・タルボット美術館の館長を務めていたマイケル・グレイによるもので、カロタイプ・ネガから当時実際に使われていた塩化銀紙(ソルテッド・ペーパー)に焼き付けてある。没後100年にあたって3セットつくられたうちの1セットが日本で初公開され、そのまま写大ギャラリーにコレクションされることになった。本展は、その「自然の鉛筆」展のリバイバル企画ということになる。
カロタイプ特有の、ややソフトフォーカス気味の描写や、淡くはかなげな色味は、今見ても充分に魅力的だ。それに加えて、数学、歴史、文学にも造形が深く、アッシリア語やバビロニアの楔文字の研究家でもあったというタルボットの知的な関心の広さは、建築物から彫刻、絵画まで及ぶ被写体の選択にもよくあらわれている。画面構成に繊細な美意識がはたらいていることにも注目すべきだろう。まさに写真表現の源流、原型として、何度でも参照すべき作品群といえるのではないだろうか。
ところで、先頃赤々舎から青山勝の翻訳で日本語版の『自然の鉛筆』(畠山直哉のエッセイ、マイケル・グレイの解説も含む)が出たのだが、その作者名の表記は「トルボット」になっている。この「タルボット/トルボット」問題は悩ましいもので、たしかに現地の発音は「トルボット」に近いようだが、長年「タルボット」という表記を使ってきたことで、今さら変更するのがむずかしいという事情もありそうだ。少しずつ「トルボット」に統一されていきそうだが、しばらくはどうしても混乱が続くのではないだろうか。

2016/05/13(金)(飯沢耕太郎)

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