artscapeレビュー

ホース・マネー

2016年06月15日号

ペドロ・コスタ監督の映画『ホース・マネー』は、死の直前の混濁した記憶の迷宮めぐりのような展開である。そして闇を裂く光の効果が強烈だった。病める男のほとんど意味不明な語りから始まるが、物語が進むにつれて、その謎めいた言葉の意味は少しずつ解きほぐされる。が、その記憶は個人の体験で閉じず、ポルトガルの社会的な事件や移民共同体の集合的記憶とも接続していた。ドキュメンタリーとフィクションの境界線が揺らぐような作品である。

2016/05/10(火)(五十嵐太郎)

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