2020年03月15日号
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artscapeレビュー

笹岡啓子『PARK CITY』

2010年03月15日号

発行所:インスクリプト

発行日:2009年12月24日

笹岡啓子は新宿・photographers’galleryの立ち上げ時からのメンバーのひとり。同ギャラリーを中心に個展の開催、グループ展への参加などの活動を積極的に続けて力をつけてきた。本書は彼女の最初の本格的な写真集であり、生まれ育った広島市にカメラを向けている。
『PARK CITY』というタイトルは、広島を、原爆記念公園を中心とする「公園都市」と見立てるという発想に由来する。いうまでもなく、記念公園一帯は1945年8月6日の原爆投下時の爆心地を含んでおり、かつては「グラウンド・ゼロ」の廃墟が広がっていた。笹岡の試みは現在の広島の眺めに過去の「空白」の光景を重ね合わせようとするものであり、それが画面全体をじわじわと浸食する黒い闇の領域によって表わされていると言えるだろう。
写真集の後半で、読者は原爆被災者の遺品などを収蔵した資料館の建物の中に導かれる。そのあたりから、この写真集の意図がはっきりと浮かび上がってくる。つまりこの写真集は、土門拳、東松照明、土田ヒロミ、石内都ら、先行する写真家たちによって行なわれてきた写真による原爆の記憶の継承を、現在形で受け継ごうとする試みなのだ。1978年生まれという、より若い世代によるその試行錯誤が成功しているかどうかは別として、作品自体は緊張感を孕んだ、密度の濃い映像群としてきちんと成立している。

2010/02/01(月)(飯沢耕太郎)

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