artscapeレビュー

社宅研究会『社宅街 企業が育んだ住宅地』

2010年03月15日号

発行所:学芸出版社

発行日:2009年5月30日

社宅街が近代日本の住宅地において重要な役割を果たしてきたことを明らかにしている研究書である。社宅街は企業所有であるという性質上、これまで歴史的にも触れられることが多くなかったが、本書は実習報文という学生のレポートを新たな資料として、これまで触れられてこなかった社宅の存在を明るみに出している。初田香成氏は、大都市におけるホワイトカラー中心の郊外住宅地と、地方都市におけるブルーカラー中心の社宅街が、近代が生み出した双子のニュータウンではないかと指摘する。だとすると、本書は知られざるニュータウン研究でもある。実際、社宅街の計画的な配置は、シャルル・フーリエら空想社会主義者の思想や、トニー・ガルニエの工業都市思想などを思い起こさせ、住宅史という観点からも、都市計画的な観点からも、社宅街は注目に値するだろう。特に、意外にも福利施設が充実しており、集会場や劇場などの施設もあったという点は興味深い。合理性を目指す企業が、住環境を重視していたことは、共同体意識の強い日本企業の特質を浮き彫りにしている。そして、社宅街は一種の研究が進むことが望まれる都市でもあり今後さらなる成果が期待される。

2010/02/20(土)(松田達)

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