2020年11月15日号
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artscapeレビュー

蔵真墨「蔵のお伊勢参り」

2010年03月15日号

会期:2010/02/19~2010/03/13

ツァイト・フォト・サロン[東京都]

蔵真墨の「蔵のお伊勢参り」のシリーズは2003年の東京・日本橋界隈から開始され、東海道をひたすら移動してようやく伊勢まで辿り着いた。今回のツァイト・フォト・サロンの個展はいわばその完結編で、名古屋から伊勢神宮までの道筋が被写体になっている。
6×6判のカメラによる中間距離のスナップという彼女の撮影のスタイルは、このシリーズを結果的に「中途半端」なものにしている。これは決してけなしているわけではなく、その「中途半端」なたたずまいこそが、現代日本の基調となる空気感をあぶり出しているように思えるのだ。被写体となっている人々も、特異性と匿名性のあいだに宙吊りになっており、いかにもどこにでもいそうでどこにもいない雰囲気で写っている。『アサヒカメラ』(2010年3月号)の「撮影ノート」に「この10年ほどで時代はどんどん閉塞し、その影響はさりげなくもはっきりと表れ、私もまたその影響下を生きている」と書いているが、たしかに蔵の写真に写っているのは、「閉塞」の状況のひとつの断面図だ。この国の全体が、何とも居心地の悪い「中途半端」さに覆い尽くされているのではないだろうか。それはまた、スナップ写真(特に顔が写っている写真)の撮りにくさに対する異議申し立てでもあるのだろう。
同時期に、モノクロームのスナップ写真を集成した写真集『kura』(蒼穹舎)も刊行された。こちらの方が、時代状況への違和感がより強く表明されているように思える。

2010/02/23(火)(飯沢耕太郎)

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